公認心理師さんに聞いてみた!子どもに『学校に行きたくない』と言われたとき(第3回)
学校に行く・行かないはゴールではなく、自分にとっての幸せを見つめ直すプロセス
インタビュー
公認心理師さんに聞いてみた!子どもに『学校に行きたくない』と言われたとき(第3回)
―不登校の今と、専門家が語る親の対応と声かけ方(公認心理師 / カウンセラー・田村俊作先生インタビュー)
朝、子どもが「学校に行きたくない」とつぶやいたとき、胸がぎゅっと締めつけられるような気持ちになったことはありませんか。「どうして?」「何がいけなかったのだろう?」そんな思いが頭の中をぐるぐると巡る。どうにかしてまた笑顔で通ってほしいと願いながらも、答えが見つからず不安になる親御さんは少なくありません。
文部科学省の令和6年度調査【※1】によると小中学生の不登校児童生徒は過去最多の35万3,970人、高校生を含めると42万人を超える規模と報告されています。
てつなぎ掲示板にも、「子どもが学校に行きたくない」「どう接したらいいかわからない」といった投稿が多く寄せられています。
そんな中、てつなぎ編集部では「公認心理師さんに聞いてみた!」連載コラムをスタート。教育・福祉・メンタルヘルスの現場で約20年間支援を続ける、公認心理師・カウンセラーの田村俊作先生に、“不登校の今と親子の支え方”について伺いました(全3回の第3回/最初から読む)。
家庭の中でどう関わるか ―― “聞きすぎない”寄り添い方と心の余裕
「どうしたの?」「なんで行かないの?」と、不登校の理由を聞きたくなるのは、親として自然な反応だと思います。
でも、あえて“聞かない”という対応にはどんな意味があるのでしょうか?心理的には、どのような効果があるのかを伺いたいです。
「聞かない」対応の本当の意味 ― 放任ではなく、信頼のかたち
基本的に「学校に無理して行かなくてもいいよ」という親の思いも、その背景にあるのかもしれないですね。
“聞きすぎない”という寄り添い方 ― 親の不安を伝えない工夫
かといって、全く聞かないのも、子供としては「知ってほしいのに...」って思う部分も出てくる。だから、“話したくなったときに話せる”ような安心感をつくってあげることが大事なんですよね。そういう意味でも、“寄り添ってあげる”ことの方が大事。
「話したくなったら話しなね」とか、「なんかあったら言いなね」とか、私たちカウンセラーもそう声をかけます。こんなふうに、軽く声をかけたりすることは当然あると思います。
ただ、 “親の心配が子どもにも影響する”ってことは、やっぱり前提にあるんですよね。親が“不安な気持ちのまま”何度も聞いてしまうと、その不安が子どもにも伝わってしまうので、“極端に聞きすぎない”っていうのはやっぱり大事ですね。
親もリセットする時間を持つこと、仕事や趣味の大切さ
てつなぎ掲示板「これをやめたら家事育児が楽になった」(2023.07.24投稿)では、“正社員を辞めてから気持ちに余裕ができた”という声が寄せられました。また、「家事が目に入ると落ち着かない」「外出すると親子でリフレッシュできる」といった投稿も多く見られます。一方で “親も息抜きすること”を後ろめたく感じる声も少なくありません。
こうした“親自身のリセット”は、親子関係や子どもの安心感にどんな影響を与えると考えますか?
子どももね、その楽しみに巻き込めばいいんだと思います。「一緒にやろう」とか、「ちょっとこれやってみない?」とかでもいいと思います。子どもにとってそれが“経験”にもなりますからね。何か親御さんがやってた好きなことって、それは永遠に“親のイメージ”にもなるし。
さっきの“サボってどこか出かけよう”(※ てつなぎ掲示板「不登校」より)っていう話もそうですけど、“お母さん自身のリフレッシュ”になってたかもしれないし、そこに子どもを巻き込んだってことになる。だから、“一緒にやる”っていうのは、とても大事なのかもしれない。
もちろん、“親だけが楽しむ時間”があってもいいと思います。ただ、親だけがやるってなると後ろめたく感じる方も多いので、ときには子どもも一緒に巻き込んであげる、そんなバランスがいいのかなと思います。
ずっと家にいると、思い詰めちゃう傾向があるので。「今日も行けなかった」「自分ができない」とか、中には“姑から言われた”とか、“子どもを行かせられない自分”を責めちゃう方もいて。
“家にいるのが子どもとお母さん”だったら、どうしても「子どもと私」みたいな繋がりだけでしかなくなるから。そうなると、親御さん自身がどんどんしんどくなってしまう。あんまり、自分はいい例を聞かないですからね。だから、やっぱり外に出て、「別の人と関わる時間」を持つのは大事だと思います。
「ちょうどいい距離感」が親子を支える ― 近すぎず、離れすぎず
「前向きにならなきゃ」と思いすぎず、“備えておく力”に焦点を当てる
てつなぎの掲示板「不登校を解決するのは親次第という偉い人多いけど」(2024.07.01投稿)では、 “褒めましょう”“前向きに”といった言葉に疲弊する親の声もありました。
このような“前向きになれない気持ち”をどう扱えばいいでしょうか?
不安になるのは、みんな同じです。でも、「不安とどう付き合うか」が大切で、“情報”を持っておくだけでも気持ちはだいぶ違ってきます。
子どもが「これやってみたい」と動き出したときに、「じゃあ、こういうのあるよ」とすぐに提示できるかどうか。それって親次第なんですよね。知識を持っていれば、焦らずに済む。
だから僕は、「親御さんができるのは、“子どもがエンジンかかったときに備えておくこと”です」ってよく言います。待つ間にもできることはある。それが、いざというときの“支え”になると思います。
不登校の先にある「幸せ」や「普通」をどう考えるか― 子どもの生き方と、親の支え方を見つめ直す
「どう関わればいいのか」「どんな言葉をかければいいのか...」。その先にふと浮かぶのが、「この子は幸せになれるんだろうか...」という切実な思いかもしれません。その子を精一杯愛しているからこそ、心配でたまらない。そんな親御さんの気持ちを抱きとめながら、今の時代の“幸せ”や“普通”について考えてみたいと思います。
不登校や多様な生き方を選ぶ子どもたちが増える今、“成功”や“幸せ”の形も一つではなくなってきています。「学校に行く・行かない」に関わらず、子どもたちがどう生きていくか。その価値観を、私たち大人も改めて考え直す時期かもしれません。
そんな“幸せ”や“普通”という言葉を、今の時代にどう捉えたらいいのか。田村先生にとって、改めて“成功”とか“幸せ”は何だと思われますか?
今の時代の“幸せ”って ― 自分の「やりたい」と心の充実を考える
“幸せ”の基準って、人によって違うからこそ「定義」が難しい。結局「幸せをどう自分で感じられるか」じゃないですかね。
幸せって、“心の豊かさ”というか…。上を見ればきりがないし、下を見ればきりがない。どこの時点で「自分は幸せか」って、難しいですよね。
やっぱり、“やりたいことをやっているとき”は楽しいと思うし、それが幸せなんだと思います。自分の「やりたい」が実際にできたとき...その実感が、やっぱり“幸福感”につながるんだと思いますね。
“普通”は幻想?―たった2割しか歩めない“普通のレール”
でも一方で、世間ではよく「普通に育ってほしい」「普通の人生を歩んでほしい」という声も聞きます。この“普通”って、いったい何なんでしょう?
「普通になってほしいって、お母さん、“普通”って何ですか?」って聞くと、だいだい「普通の大学に入って、普通の会社に入って...」って言いますね。そう思っている方は一定数いらっしゃいます。でも、“普通”って、さっきも言いましたけど、もうこの世の中、いろんな生き方がありますからね。よく“普通”って言われるのは、結局「一般企業に入って」とか、そういうことなんですよね。
でも、その“普通のレール”に乗れる人って、実はかなり少なくて、20%ぐらいしかいないんですよね。高校に入学するのが98%くらいで、その後、4年制大学に進学するのが今だいたい60%ぐらい【※2】。それで、“普通”って言われる年収の中央値を480万円とすると、中小企業でそれを取れるところって、けっこう少ないんですよね。実際の中央値が400万円ちょっとなので【※3】、そこそこ大きい企業に新入社員から入らないと厳しい。
「普通」って、みなさん50%とか60%くらいの中央値の中で行われることを「普通」だっていう印象だけど、実際には2割か3割しかなれない。そこへのイメージがあまりないんだと思うんですよね。 “普通が普通ではない”。“普通がレアである”ってことの認識が、まず必要だと思う。 そうなると、「じゃあもう普通は目指せない」ってなっても、逆に言えば、“普通になる”のは2〜3割に入るくらい難しいこと。だから、“その人に合った人生設計を考えればいいのかな”っていうのは個人的には思うところですね。
“不登校”は終わりではなく始まり ― 幸せの形を見つけ直す時間
不登校という経験も、子どもや親が“幸せをどう感じるか”を見つめ直す時間なのかもしれません。焦らず、その子のペースで“自分らしい生き方”を見つけていくことが、いちばんの成功につながるのかもしれませんね。
一人で抱えず、「みんなでゆっくり考えていきましょう」
時には親御さんも息抜きしてください。「学校がすべて」じゃないから。行けるようになったら行けばいいし、行けなくても、それはそれでいい。そもそも「行きたいかどうか」も含めてね、ゆっくり考えていけばいいと思います。
“お子さんにとっていい人生”を、一緒にゆっくり考えていきましょう。
公認心理師
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