公認心理師さんに聞いてみた!子どもに『学校に行きたくない』と言われたとき(第2回)

大切なことは“細く長く”学校や社会と繋がっていくこと

インタビュー

公認心理師
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公認心理師さんに聞いてみた!子どもに『学校に行きたくない』と言われたとき(第2回)

―不登校の今と、専門家が語る親の対応と声かけ方(公認心理師 / カウンセラー・田村俊作先生インタビュー)

朝、子どもが学校に行けない日が続くと、親としてどうしたらいいのか分からなくなってしまいますよね。「無理にでも行かせるべき?」「そっとしておいた方がいいの?」そんな迷いの中で、心が疲れてしまう方も多いと思います。

文部科学省の令和6年度調査【※1】によると小中学生の不登校児童生徒は過去最多の35万3,970人、高校生を含めると42万人を超える規模と報告されています。

てつなぎ掲示板にも、「子どもが学校に行きたくない」「どう接したらいいかわからない」といった投稿が多く寄せられています。

そんな中、てつなぎ編集部では「公認心理師さんに聞いてみた!」連載コラムをスタート。教育・福祉・メンタルヘルスの現場で約20年間支援を続ける、公認心理師・カウンセラーの田村俊作先生に、“不登校の今と親子の支え方”について伺いました(全3回の第2回/最初から読む)。

不登校は「負け組」じゃない。― 社会の偏見を越えて、子どもの生き方を考える

「不登校=負け組」という偏見と、社会に残る固定観念

てつなぎ編集部
てつなぎ掲示板の「こんなことは絶対に言ったらダメだと思う」(2025.05.02投稿)では、 “不登校=社会のルーザー”という偏見への怒りと悲しみが綴られていました。

このような偏見が残る今の社会で、私たち大人は、不登校への理解や受け止め方をどう広げていけばよいでしょうか?
田村先生
多分、「学校は行くもんだ」って“固定観念”や“偏見(スティグマ)”は、完全にはなくならないと思うんですよ。「不登校は負け組」「敗北者だ」っていう思想は、百パーセントゼロにはならないんじゃないかなと。それは、親御さんが子どもを心配する気持ちの裏返しでもあると思います。「学校に行けていない=この先が不安」という気持ちは自然なことで、そこに“世間の目”が重なってしまうと、より苦しくなるんですよね。

でも、不登校になったとしても、結局「学校がすべて」じゃないですから。ある種、学校って、生きていくための“過程”でしかない。
じゃあ東大に行ったからっていい会社に入れるかというと、 入れるっちゃ入れるけど、続くかどうかはまた別の話だし。学校って、その人が将来、生活していくための「通過地点」でしかない。

 学校の外でも育つ、“自分の力で生きる”ための準備

田村先生
大事なのは、やっぱり「自分でお金を稼ぐ」ってことなんですよね。 自分で稼いで、生活していく力を持つこと。それは別に、今すぐ働けるようになるってことじゃなくて、「自分の力で生きていけるようになる」っていう意味です。

そのための準備は、学校に行っていなくてもできる。たとえば、好きなことを見つけて続けていくことや、人と関わる中で小さな達成感を積み重ねていくことだって、立派な“社会との関わり方”の時間なんですよ。だから、不登校になったからといって負け組ではないし、敗北者でもないと思います。

よく私たち、「納税者になってもらうことが大事だ」って言うんですよ。つまり、自分でお金を稼いで、自分の力で社会に参加できること。それが将来的にできれば十分。

そのためには、やっぱり、“自分の好きなこと”“できそうなこと”を見つけていく力、自分の得意・不得意を知って「これならできるな」って客観的に見られる力が大事なんです。それが“実行機能(自分の行動をコントロールして計画的に実行する力)”とか“自己理解”につながる。
だから、「学校に行けるかどうか」よりも、“自分のペースで生きる力”を育てていけることのほうが、よほど大切だと思います。

「不登校」は終わりじゃない ― 新しい生き方を見つける始まり

てつなぎ編集部
先生のお話を伺っていると、子どもの不登校は、“これからどう生きていくか”を考える大切なきっかけにもなるんだなと思いました。

不登校を「終わり」ではなく「始まり」として捉える視点を持つことが、親にも社会にも求められているのだと感じます。 とはいえ、目の前の子どもが「行きたくない」と言っているとき、親としてはどう対応すればいいのか、迷ったり、悩んだりするのも、保護者のリアルな姿ですよね。
関連する「子育て本コラム」を読む

不登校専門家が伝える!――親が苦しくならないように「健康メンタル」を保つ思考方法(あさ出版 不登校専門家/ウェルビーイング教育コーチ野々 はなこ著)

行かせる?休ませる?ー“細く長くつながる”という考え方

てつなぎ編集部
てつなぎ掲示板「どうしても無理なら行かせない」(2024.06.10投稿)でも、“行かせたい気持ち”“休ませたい気持ち”の間で揺れる親心が描かれていました。

実際、不登校や登校しぶりに悩む保護者の中にも、同じように迷う方は多いと思います。「行く・休む」を判断するときの基準や、意識しておくといい視点はありますか?
田村先生
大事なのは、「学校や社会とのつながりを切らない」ことだと思うんです。「行かせるか休ませるか」っていう二択じゃなくて、たとえば「行ってダメだったら早退してくればいい」とか、「遅刻して行ってもいいじゃない」とか、そのくらいの柔らかさでいい。今日難しくても、明日ちょっとだけ行ってみようか、みたいに。

情緒不安定なときこそ、波があって“行ける・行けないタイミング”もあるだろうから。“細く長く”学校や社会と繋がっていく方がいいかなと思います。
てつなぎ編集部
なるほど。「行かせる」でも「休ませる」でもなく、“自分たちなりのペースで、細く長くつながりを持つ”。たとえ学校じゃなくても、子どもが“安心して関われる場所”“人とのつながり”があるだけで、親としても少し心が軽くなる気がします。

実際、親としては「今日は行けそう」と思えば背中を押したくなるし、逆に子どもの顔を見て「もう無理かも」と感じる日もある。そのたびに、“どこまで関わっていいのか”“押しすぎじゃないか”と迷う親御さんは本当に多いと思います。
どんなときに「もう行かせない方がいい」と判断したらいいんでしょうか?

「もう行かせない方がいい」サイン ― 心や体に出るSOS

田村先生
体に出ちゃうことが、やっぱり一番よくないと思うんですよね。要は身体化症状(心の不安やストレスが、頭痛や腹痛、吐き気など体の不調として表れること)って、もはや病気なので。吐いちゃうとか、前の日に眠れないとか。そういった不安が高まりすぎる場合は、やめた方がいいと思います。
てつなぎ編集部
そうですよね。あと、「体に出てしまう前に気づけたら...」と思う親は多いと思います。「どこまで頑張らせていいのか」「どの段階で止めたらいいのか」と迷う場面も多いですが、どんな“兆候”が見られたら注意した方がいいのでしょうか?
田村先生
そうですね。睡眠、食事、あと女の子なら月経の変化。それから、「よくわからない怒り」や「よくわからない悲しみ」など情緒面の変化もサインになりやすいです。
てつなぎ編集部
そういう“変化が出る前”は、登校の背中を押してあげてもいいんでしょうか?

学校との連携のコツ ― “無理せず、つながりを保つ”ために

田村先生
そこは駆け引きですね。押せるんだったら押した方がいいし。それは本当に感覚的なものだからとても難しいけど。押しすぎて「ちょっとやばいな」と思ったら、学校と連携取って、「ちょっと今日押しすぎちゃったんでフォローお願いします」みたいな形を取ってもいいのかもしれない。「難しそうなら返してあげてください」とか。

学校の理解がどこまであるかわからないですし、相談室があるかもその学校によりますが、本人のキーパーソンなるような人に「一言伝えておく」だけでも、子どもが安心できるかなと思います。
てつなぎ編集部
先生のお話を伺っていると、「行く・行かない」だけでなく、“どうつながり続けるか”が大事なんだと感じます。 一方で、実際の現場では、不登校の子どもを持つ保護者が「学校との関係」に悩むケースも多いですよね...。
関連する「子育て本コラム」を読む

不登校児ゼロ教師が伝える――過保護でも放任でもない「ちょうどいい距離感」を見つける(かんき出版 帝京大学教育学部教授/放送大学客員教授 鎌田 和宏 特定非営利活動法人この子キャリア応援団理事長 上村 公亮

不登校のとき、学校との関係をどう保つか ― 不信感・転校・相談先の選び方

てつなぎ編集部
てつなぎ掲示板「表向き“理想的な学校”のブランディングを維持するために、いじめを認めない風潮がある」(2023.07.06投稿)でも、「子どもの気持ちよりも“学校のイメージ”を優先しているように感じた」という声も寄せられました。

このように、不登校の子どもをめぐって学校や先生への“不信感”を抱いたとき、保護者はどんなスタンスで関わっていけばよいでしょうか?

学校への“不信感”を抱いたとき ― 無理せず、専門家を頼っていい

田村先生
王道でいえば、スクールソーシャルワーカースクールカウンセラー、あるいは養護教諭の先生などに相談してみる。そうした専門的な立場の人に頼ることも、一つの方法。 それでも状況が変わらない場合や、“環境そのもの”が原因になっている場合は、思い切って「転校」という選択を考えてもいいと思います。「別の場所に移る」というのは、逃げではなく、立派な一つの方法です。
てつなぎ編集部
「転校も一つの選択肢」と言われると、たしかに救われる気持ちになります。でも同時に、「どうして子どもが環境を変えなきゃいけないの?」「親の負担も大きいのに」と感じる方も少なくないかもしれません。

できれば、今いる学校の中で、少しでも安心できる関わり方を見つけたい場合、先生のおっしゃる通り、担任の先生だけでなく、スクールカウンセラーや養護教諭など、“少し距離のある立場”専門家に相談してみるのも一つの方法ですよね。

ただ、それでもやっぱり、「カウンセラーも結局“学校の人”だから相談しづらい」と感じる保護者の声もよく聞きます。

そういった場合、不登校の相談ができる“学校外”のサポート先として、どんな機関を考えればよいでしょうか?

学校の外にも支援の手がある ― 教育相談センターや教育委員会を活用

田村先生
スクールカウンセラーは学校の中にいますけど、やっぱり“中立の立場”なんですよね。正直、ケースによっていろいろ変わりますけどね。保護者の立場になることもあれば、子どもの立場になることもある。

基本的に、その子にとってどんな生活がいいのか、どんな学校生活がいいのか、そしてその子の人生がどうあるのがいいのか。そこを考えるのがスクールカウンセラーの役割。

ただ、現実的には、対応の仕方にばらつきがあるのも事実です。あとは自治体の教育相談センター教育委員会などでもいいと思うんですよね。

自治体のカウンセラーがソーシャルワーカーを兼ねていることもありますし、不登校のようなケースでは、ソーシャルワーカーさんがメインで受けるケースも多いと思います。そういった学校の外部のリソースを使うことは、保護者にとっても「一人で抱え込まない」ためにも、とても大事だと思います。

どこに相談すればいい?スクールカウンセラーとソーシャルワーカーの違い

てつなぎ編集部
先生の話にも出てきたスクールカウンセラーやソーシャルワーカーなど、保護者にとっては「どこに相談すればいいの?」と迷いやすい部分ですよね。「スクールカウンセラー」と「スクールソーシャルワーカー」は、具体的にどう違うのでしょうか?
田村先生
簡単に言えば、心理と福祉の違いです。スクールカウンセラーは心理面のサポートを、スクールソーシャルワーカーは環境面の調整や外部との連携を担当します。

私はもともとスクールソーシャルワーカーがベースで、体感としては6割がその仕事ですね。環境を整えたり、外部機関とつないだりするのが主な役割です。
てつなぎ編集部
たとえば「どちらに相談したらいいか」と迷ったときは、どう判断すればいいですか?
田村先生
そうですね。お子さんが心の面でつらそうにしているときはカウンセラー、学校や先生との関係調整が難しいときはソーシャルワーカーが適しています。カウンセラーは心のケア、ソーシャルワーカーは橋渡し役。そんなふうに覚えておくと分かりやすいかもしれません。

ただ、最近は兼任している人も多いんですよ。ソーシャルワーカーがカウンセラーのように面談したり、カウンセラーが福祉的な動きをしたり。立場よりも、「その人がどこまで対応できるか」によるところが大きいです。
てつなぎ編集部
なるほど。スクールカウンセラーやソーシャルワーカーといった専門職の方が、「心」と「環境」の両面から支えてくれる存在なんですね。親としても、学校の中だけで抱え込まず、そうした人たちに相談してみることで、受け止め方の選択肢が増えるように感じます。 では次に、“家庭の中での関わり方”について伺いたいと思います。子どもが家にいる時間が長くなる分、親として“どんな距離感”で向き合えばいいのか。田村先生の視点から、そのヒントを探っていきます。
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話し合える親子関係へ「学校に行く準備が進まないとき」(WAVE出版 不登校・引きこもり専門カウンセラー 今野 陽悦

PROFILE

公認心理師

田村 俊作

公認心理師。教育現場でのカウンセリングを中心に、中学校や行政機関、地域の相談窓口などで子ども・保護者・大人の支援を行い、 スクールソーシャルワーカー、精神保健相談員としても活動。教育・福祉・保健医療・メンタルヘルスの現場を横断的に経験し、 現在は都内の学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)でスクールカウンセラーとして活動中。
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