公認心理師さんに聞いてみた! 子どもに『学校に行きたくない』と言われたとき(第1回)

不登校の時代に改めて考える、「学校に行く意味」と親の関わり方

インタビュー

公認心理師
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公認心理師さんに聞いてみた! 子どもに『学校に行きたくない』と言われたとき(第1回)

―不登校の時代に改めて考える、「学校に行く意味」と親の関わり方

「学校に行きたくない」と言われた朝、どう声をかけたらいいのかわからない。無理に行かせるべきか、それとも休ませるべきか...。そんな保護者の戸惑いが、夏休み明けの9月から10月にかけて特に増える時期と言われています。

文部科学省の令和6年度調査【※1】によると小中学生の不登校児童生徒は過去最多の35万3,970人、高校生を含めると42万人を超える規模と報告されています。

てつなぎ掲示板にも、「子どもが学校に行きたくない」「どう接したらいいかわからない」といった投稿が多く寄せられています。

そんな中、てつなぎ編集部では「公認心理師さんに聞いてみた!」連載コラムをスタート。教育・福祉・メンタルヘルスの現場で約20年間支援を続ける、公認心理師・カウンセラーの田村俊作先生に、“不登校の今と親子の支え方”について伺いました(全3回の第1回)。

不登校の増加と低年齢化をどう見るか? ― 公認心理師が語る今の現場

低年齢化する不登校 ― 低学年・未就学から広がる相談の実情

てつなぎ編集部
日々、スクールカウンセラーとして多くの子どもや保護者と関わる中で、最近、“不登校の相談”に変化を感じられますか?
田村先生
そうですね。最近は、不登校が低年齢化している印象がありますね。中学生や小学校の高学年よりも、2・3年生くらいの相談が増えているところが多いかなと思います。中には、保育園からという子もいたりしますから。
てつなぎ編集部
保育園から、というとかなり早い段階ですよね。その変化はいつごろから感じるようになりましたか?
田村先生
5〜6年前くらいからですかね。その頃から「保育園から行っていない」という子が結構増えてきた印象です。
てつなぎ編集部
ちょうど、てつなぎ掲示板にも似たような投稿がありました。「息子が不登校になった原因がやるせない」(2024.04.25投稿)という内容で、幼稚園の頃に“先生との関係”がきっかけで登園しぶりが始まり、そのまま小学生になっても不登校が続いたというものです。

いま紹介したように“先生との関係”がきっかけになる場合もありますが、特に、最近増えている低年齢のお子さんたちが「行きたくない」と感じるとき、その背景にはどんな傾向や変化があると感じますか?

親の関わり方と時代の変化 ― 尊重と見守りのあいだで揺れる家庭

田村先生
最近は、「“発達特性”の傾向が強いから行けない」というケースが減った印象がありますね。実際に何がベースになっているのかを一つに絞るのは難しいですが、“親の関わり方”など、いろいろな要素が重なっているように思います。
てつなぎ編集部
“親の関わり方”、というのは?
田村先生
そうですね。親自身が、どう子どもに関わったらいいのか、迷いや戸惑いを抱えているケースが多いように思います。「子どもの気持ちを尊重したい」という思いがあっても、どこまで見守って、どこから促していいのか、そのバランスが難しくなっているというか。
てつなぎ編集部
すごく分かります。“尊重”と“見守り”の線引きって本当に難しいですよね。「無理しなくていいよ」と子どもに声をかけること、“面倒なことや嫌なことはやらなくてもいい”という意味に伝わってしまうこともあるかも知れない、と感じることは自分自身もよくあります。
田村先生
そうですね。“言葉の意図”と“受け取り方”がずれることはあります。でも、それは親御さんが悪いとか間違っているという話ではなくて、それだけ“親が子どもに寄り添おうとしている”証拠でもあると思うんです。ただ、その寄り添い方がとても難しい時代になってきているなとは感じますね。
てつなぎ編集部
難しい時代、というのは...?

社会の変化と家庭の孤立 ― “誰か一人の責任にしない”視点を

田村先生
たとえば、社会の変化の影響もあります。共働きの家庭が増えて、両親が物理的にも忙しくなっていますし、家族のサポート体制も昔より小さくなっています。核家族化“ひとりで抱え込む”親も多いですよね。そうした環境の中で、親も子も関係の持ち方を模索しているように思います。
てつなぎ編集部
たしかに、家庭や社会の構造そのものが変わっていますね。
田村先生
そう。だから不登校の背景を「これが原因です」と言い切るのは難しいです。きっかけはいろいろありますが、原因は一つではなく、いくつもの要素が絡み合っている。それを“誰か一人の責任にしない”こと“みんなで見守り支えていくこと”が大切だと思います。

それに、見方を変えれば、今の時代の子どもたちは“自分の気持ちを大切にできるようになってきた”とも言えます。昔のように「我慢して行く」のではなく、「しんどい」ときに自分の気持ちを言葉にできるようになった。親御さんも「子どもの気持ちを尊重しよう」と考える方が増えたのは、社会全体として大きな進歩だと思います。
てつなぎ編集部
「親が悪い」「学校が悪い」といった単純な線引きではなく、子どもを取り巻く環境や社会の変化、そして親自身の“どう関わるか”という迷い…。さまざまな要素が重なり合っているんですね。 そして、親もまた、子どもの声に耳を傾けようとする姿勢を持つようになった。 こうした変化は、子どもが自分の気持ちを大切にできるようになってきたという“前向きな時代の変化”でもあると思います。 そうした関係性の変化の中で、「学校に行くこと」そのものの意味が、いま改めて問われているのかもしれませんね。

不登校の時代に改めて考える、「学校に行く意味」とは?

「学校に行く意味」は“社会経験”と“関係づくり”

てつなぎ編集部
「不登校」や「学校に行かない」という選択が珍しくなくなってきた今、改めて“学校に行く意味”をどのように考えたらいいのでしょうか。
田村先生
学校に行く意味をあえて言うなら、“社会経験”“同年代とつるむ関係性の構築”ですかね。学習ってやってた方がいいものだとは思いますけど、実際あとでもどうにかなるし、結局モチベーションがないと勉強ってできないですからね。
てつなぎ編集部
学校以外の場所でも、たとえばフリースクールや地域のコミュニティなど、子どもが“社会とつながる機会”はありますよね。そういう場で生き生きしている子もいますが、その点はどうお考えですか?

“学びの場”は学校だけじゃない ― フリースクールや地域のつながり

田村先生
そうですね。社会って、どこに行ってもいろんな人がいますよね。年上もいれば、年下もいる。考え方が合う人もいれば、合わない人もいる。そういう中で人と関わる“経験を重ねていく場”として、学校っていうのはその中の「ひとつの位置づけ」なのかなと思います。

でも、それを学ぶ場所は“学校”に限らなくてもいい。たとえば適応指導教室フリースクールなどでも、いろんな大人やいろんな年代の子達がいて、そういう中で関わり方を学ぶことができる。だから、どこで学ぶかは人それぞれでいいと思います。
てつなぎ編集部
学び方や育ち方は一人ひとり違っていい、ということですね。その上で、そもそも「学校に行かない」“不登校”の子たちが増えているという現状について、田村さんはどう感じていらっしゃいますか?

「行かない」=終わりじゃない ― 子どもが輝く“タイミング”を信じて

田村先生
そもそも「毎日学校に行く」ってことの前提があるからこそ、“行けない子”は「不登校」だっていう意識になっているのかなと思います。

たとえば海外なんかではホームスクーリングとかもありますし、今、日本でもだいぶ進んできてますよね。学校に行かなくても、自分に合ったいろんな方法で「学習」ってものが身につけばいいんじゃないかなと思うんです。

たまたま今は、学校とか、そういう“社会の場”に関わるタイミングじゃなかっただけじゃなかっただけ。いずれ、どんな形でもまた人や社会とつながっていく機会はあると思います。

やっぱり「適材適所」というか、その子が輝けるタイミングっていうのもあるから、不登校に対してネガティブには思わないですね。
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不登校でも、人との関わりは育つ ― リアルでもオンラインでも広がる“つながり”の形

てつなぎ編集部
今は、学校以外にも人とつながれる場所がたくさんありますよね。オンラインやメタバースなど、“不登校の子どもたちが社会と関われる場”もどんどん広がっています。

特に発達特性などからもともと人との関わりが苦手な子や、いじめなどの辛い経験から外に出ることに不安を抱えている子も少なくありません。

そうした子どもたちにとって、オンラインは“人と関わる”うえでハードルを下げるきっかけにもなりそうです。こうした“オンラインのつながり”の中でも、「人と関わる力」は育っていくとお考えですか?

オンラインでも育つ“人と関わる力” ― 安心できる関係から始めよう

田村先生
そうですね。今はAIだとかオンラインだとか、在宅でもできる仕事が増えて、社会の幅はすごく広がっていると思います。オンラインやメタバースの中で関係を作ることも、今の時代らしいやり方ですよね。実際、そういう場(オンライン)の方が安心できる子も多いと思います。オンライン上のやり取りも含めて、“人と関わる感覚”って、どんな形でも大事なんですよね。

やっぱりどこに行っても“人との関わり”はゼロにはならないと思うんです。結局、仕事をするときも誰かとやりとりをすることはあるし。AIで全くできないってこともないだろうけど、AIで仕事取ってくるって言っても、交渉したりやりとりしたりっていうのは“人”だから。

大切なのは「リアルかオンラインか」ではなくて、“安心できる関係”の中から少しずつ広げていくことだと思います。

“好きなこと”が関係を育てる ― 推し活や趣味から始まるコミュニケーション

田村先生
挨拶ができたとか、人と会話や雑談が楽しめるようになったとか、そういう“慣れ”の積み重ねが力になります。最初は緊張しても、ちょっとずつ経験を積めば大丈夫。慣れって、すごく大きいですからね。

要は、「雑談する」というのがとても難しいんですよね。「なんとなくふわっとした会話をする」って、実は一番難しい。でも、何か“共通の話題”があると、話ってすごくしやすいじゃないですか。

たとえば、「好きなキャラクター」とか、「推し活」とか。そういう“好きなもの”をきっかけに話すのも立派なコミュニケーションです。そういったところで関わりを育んでいくのも、十分いいと思います。それは、学校だけじゃなく、いろんな場所で、いろんな形で育っていくものだと思います。

リアルでもオンラインでも ― 子どもが“安心して関われる場”を見つけよう

てつなぎ編集部
先生のお話を聞いていて感じたのは、「人との関わり」はリアルかオンラインかではなく、“どう安心して関われるか”なんだということ。たとえ画面越しでも、好きなことを通じて誰かと笑い合ったり、言葉を交わしたりする経験の中で、確かに関係は育っていくんですよね。

安心して“人と関わる楽しさ”を感じることが、その後も「社会や人とつながる」きっかけになっていくのだと改めて感じました。

そして今の社会では、その“つながり方”そのものが多様化してきている一方で、「不登校」や「学校に行かない」という選択に対しては、まだ偏見誤解が根強く残っているようにも感じます。
PROFILE

公認心理師

田村 俊作

公認心理師。教育現場でのカウンセリングを中心に、中学校や行政機関、地域の相談窓口などで子ども・保護者・大人の支援を行い、 スクールソーシャルワーカー、精神保健相談員としても活動。教育・福祉・保健医療・メンタルヘルスの現場を横断的に経験し、 現在は都内の学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)でスクールカウンセラーとして活動中。
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