子どもの算数力の育て方――大人の算数嫌いが子どもにうつる

算数を「苦手」から「好き」に変え、算数の力を伸ばすことで、子どもの可能性は大きく広がります。 未来を切り拓く算数力を養う、新しい時代に必携の一冊です。

教育

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長/哲学博士/EdTechコンサルタント
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つい言っている算数好きな子どもを算数嫌いに変える声かけ

続いて、「子どもを算数嫌いにしないための基本ポイント」の3つ目を見ていきましょう。

算数が得意なミナトのストーリーを思い出しながら考えてください。

基本ポイント

「できた!」より「やってみた!」を褒める

算数が得意な子どもの力をより伸ばしたい。

そんな親心から、問題が解けたときや点数がよかったときに、しっかり褒めていい気分にしてあげたいと思う。

「よくできたね!しかも、計算が速い!」「こんな点数をとれるなんて、頭いい!」そう褒めることで、成功体験や有能感を感じさせてあげて、算数にポジティブに向き合えるようにしてあげたい。

こんなふうに、成績や正解など「できた!」を褒める声かけは、ごく自然で、効果的だと思われがちですが、実はとても注意が必要です。

できたことや、それに関連して子どもの頭のよさばかりを褒めていると、子どもは常に、「できる」「賢く見える」を求めてしまい、失敗を恐れるようになる。

その結果、子どもは「できる」とわかっている簡単な問題ばかりやりがちになり、難しい問題に多大なプレッシャーを感じ、やる気が出なくなってしまうのです。

そうなってしまったら大問題。

なぜなら、脳は間違えたときに、最も効率的に学べるようにできているからです。

「あ、間違えた!」。

このとき、脳内ではドーパミンが分泌。ニューロン回路が効果的にアップデートされるように準備が整います。

つまり、間違えたときこそ、新たな学びを得て脳が成長するチャンスが訪れている。

だから、子どもが間違えたときに、親子で落ち込んでいる暇はありません。間違えたことを叱りつけて萎縮させてしまったり、できることばかり褒めて、間違えを恐れさせたりしてもいけません。

それでは、脳が変わろうとする最大のチャンスを、避ける体質を作ってしまいます。

そうならないように、日頃から、「間違えたときこそ脳が学ぶ最高のチャンスだ」と思えるように子どもをサポートしていきましょう。

そのための第一歩は、子どもがやってみようとしたことを褒めること。

「できた!」よりも、「やってみた!」をまず褒めて、間違えた場合には、どのように間違えて、どのように直していくかを一緒に考えることが大事です。

子どもが間違えたときの正しい対応方法は、後ほどさらに詳しく解説していきます。

「スピード重視」は算数の「好き」を摘みとる危険がある

「子どもを算数嫌いにしないための基本ポイント」の4つ目を見ていきましょう。

基本ポイント

計算のスピード重視は危険

速く正確に解ける子が算数のできる子。

教室でも家庭でも、ついそんな評価軸がはびこってしまいがちです。

わかって正解が出るだけではダメで、より速く正確にできるための練習を、ドリルや練習帳でとことんやりこんでいく。

しかし、そんなスピード重視の勉強法は、算数が好きな子のやる気さえも静かに冷やしてしまいかねません。

速さは目に見えやすい指標ですが、深く考える力や関係づける力を覆い隠し、「遅い=ダメ」という誤解を生んでしまい、いらないプレッシャーにつながります。

また、受験や社会生活でも計算の速さはある一定まで必要だったとしても、考え方やうまいやり方を見つけることのほうが、合格や解決法の発見に役立ちます。

そして、速さだけを褒められる子は、速くできるように難問を避けてしまい、速くできない自分を責めるように。

それでは、算数が好きだったとしても、すぐに嫌いになってしまいかねません。

それだけではありません。

算数のスピード競争は、時間によるプレッシャーによりストレスを招き、脳のワーキングメモリーに負担をかけてしまいます。

「ワーキングメモリー」とは、言葉やイメージを、現在の意識にホールドしておく脳の働きのこと。

たとえば、「15+37」。

これを暗算できるのは、私たちが「15」や「37」という数字を思い浮かべながら、足し算の「コマンド」を意識の中で実行できるから。それを可能にするのが私たちの「ワーキングメモリー」です。

しかし、このワーキングメモリーは、容量がとても小さいことが知られています。

大人も子どもも、意識下にホールドしておけるものの個数は3つから5つくらいというのが最近の定説になってきました。

ただでさえ難しい算数に、時間によるプレッシャーをかける。そのことで、もともと容量の小さいワーキングメモリーに過大な負荷をかけてしまう。

そうなれば、普段は知っているはずの事実や手順が思い出せず、「自分はできない」という自己効力感の低下につながってしまいます。

この悪循環が続けば、算数不安や算数嫌いが早期に芽生え、好きだった気持ちも失われかねません。

しかも、スピードトレーニングは「速い子は速いまま」「遅い子はより遅く」というスキル格差の固定化を招きがちです。

計算タイムを縮める練習は、深い理解や戦略のレパートリーを広げる機会を奪い、手と目を決まったルールに沿って動かすだけの「作業」にしてしまいがちです。

速く正答を出すことを求めるのではなく、多様な考え方や表現の方法を大事にすることが、長い目で見て学力も意欲も伸ばします。

数学者ロラン・シュヴァルツは、若い頃、「自分は問題を解くスピードが遅いから頭が悪い」と思い込んでいました。

彼が数学者として大成したのは、速さと知性は別物であり、重要なのは深く理解することだと気づいてからでした。

速さと正確さに偏重せずに、子どもの数のセンスを伸ばす。それが、本当に役立つ算数の力をつけるための鍵なのです。

PROFILE

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長/哲学博士/EdTechコンサルタント

星 友啓

1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。 TexasA&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士課程修了。同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクールスタートアッププロジェクトに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。 著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)、『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)など。
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