「感情リテラシー」をはぐくむ――不登校やいじめと「感情リテラシー」
「自分の感情に気づく」「他者の気持ちを想像する」「気持ちを言葉で伝える」といった、感情に関する基礎的な力を育むことは、単に感情の安定をもたらすだけでなく、今の時代を生きる土台となる。世界でも注目のSEL(社会性と感情の学習)と感情リテラシーの育て方について第一人者が丁寧に解説。
学校
子どもの激しい怒りに直面したとき、私たちはつい感情的に反応してしまいがちです。しかし、その怒りの中には「わかってほしい」「寂しい」という切実な思いが隠れていることが多々あります。
本書は、そんな子どもの本音を読み解き、感情に関する基本的な力「感情リテラシー」の育て方を丁寧に解説します。
渡辺弥生著書の『怒っている子どもはほんとうは悲しい 「感情リテラシー」をはぐくむ』から一部転載・編集してお届けいたします。
「感情リテラシー」で校内暴力を予防できないか?
文部科学省の校内暴力の定義(例:児童生徒の問題行動等調査)は、「児童生徒が学校において行う、暴力を用いた行為」とあります。
2024年度の児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要は、資料3-1のとおりです。
ここのところ年々増加していることがわかります。
特に、小学校の1000人あたりの暴力の発生件数が増えており、低年齢化していることがわかります。
校内暴力の主な分類として、4つほどあります。
1つ目は、まず先生など教職員に対して暴力を振るうことです。殴る・蹴る・暴言・物を投げるなどがあります。
2つ目は、友人や同級生など他の児童生徒に対する暴力で、ときに、いじめと区別されるときがありますが、生徒の間での暴力です。
3つ目に、校内にある備品や建物をわざと壊す行為として、器物破損のカテゴリーがあります。
その他として、通学途中や校外活動中に起きた暴力で、学校とからむ暴力が挙げられています。
こうした校内暴力は、どうして増えてきているのでしょう。
単に「ルールを守れない」とか「暴力はダメということを知らない」といった原因のせいにしているのでは、こうした問題は改善しません。
しばしば多くの要因が複合的に関与していると考えられますので、慎重に考えることは大切ですが、子どもたちが自分を律せないこと(そもそも、律する力が未熟)の背景には、「気持ち」「感情」があります。
誰にでも、やりきれない思い、イライラ、不安、悲しみ、馬鹿にされたときの怒り……などの気持ちがあること、そして暴力に頼る子どもは、それを調節する感情リテラシーが未熟であることを、まず理解する必要があります。
そうした子どもたちは、生活の全般において、自己肯定感が低くなってしまい、同時に、誰かにわかってほしい、認めてもらいたいという承認欲求が、うまくバランスが取れないほど頭をもたげてきているのではないでしょうか。
本書の冒頭でも触れた、「mattering」という心理学の専門用語がありますが、これは端的にいえば、「自分が他者から気にかけられ、必要とされ、重要視されていると感じること」です。
これが保証されないと、自己肯定感が下がり、多くの問題を生じると考えられています。
暴力の背景には、学校での教師や仲間との関係だけでなく、家庭や社会環境からのストレスも加わっていると考えられます。
ですから、学校に原因がある、いや家庭に原因があるなどと、そこで犯人探しをするよりは、むしろ、子どもの感情を言語化させて、理由を子ども自身も理解し、自分の気持ちをマネジメントするすべを教えてあげる必要があるのです。
文部科学省の調査では、校内暴力は特に、小学校段階での増加が顕著で、低年齢化が課題となっています。発達心理学の知見をもとにして考えれば、年々、感情のセルフマネジメントスキルや対人スキルを習得することが難しくなっており、外からの具体的な教育的支援が大きなサポートになると考えられています。
「最近の児童生徒は、感情を抑えられず、考えや気持ちを言葉でうまく伝えたり、人の話を聞いたりする能力が低下している」と指摘されており、その課題の改善が教育現場に求められているわけです。
感情のマネジメント
その視点から、学術研究においては、さまざまな取り組みが報告されています。
宮城政也・喜屋武享による「中学校特別活動におけるアンガーマネジメント教育の効果」(2018)では、ストレスマネジメントやアサーティブネス・トレーニング(自己表現トレーニング)を取り入れたアンガーマネジメント教育を実施し、その効果を評価しています。
実際のトレーニングの内容のうち、感情に関わるものは、「怒り」に焦点を当て、「怒りについての理解」「怒りの原因の譲れない価値観の理解」とストレスについてでした。
トレーニングの結果として、ストレス反応を「疲労感」「首や肩の凝り」「憂鬱」、自己効感を「怒りの制御」「落ち着き」「ストレス緩衝」で検討していますが、興味深いことに、「怒り」の感情よりも、「憂鬱」が低下した効果が指摘されています。
私は、暴力の原因となる感情を、「怒り」のせいだけにしてしまいやすい傾向があるのを懸念しています。
暴力の背景は、怒りだけではなく、実際には、まず悲しみ、惨めさ、孤独、不安、悲しみなどの感情があり、時間とともに怒りなどの気持ちが入り交じってくる気がしています。
本当の感情を捉えるのは、自分でも難しいことです。
日常生活では、「怒り」にばかり注意を向けがちで、その「怒り」をなくそうとする教育的関わりが強い気がしていますが、「怒り」の感情自体を持つことは悪くないことだと思っています。
というより、怒りの気持ちがすでに生じているのに、「ゼロ」や「マイナス」にすることはできないと思うのです。
むしろ、こうした怒りやストレスを持っていることを自覚させ、それを言葉に置き換えたときに、なぜそのような気持ちを持つのかを考え、そしてそれを、適切な方法で解決するすべを教えることが必要だと思います。
さまざまな心理教育の授業が提案されています。
こうした方法を通じて、感情リテラシー、および感情調整能力を高める試みが重ねられ、普及するとよいと思います。
これにより、生徒の感情への否定的評価が緩和され、校内での衝突や暴力行動の予防につながる可能性が示されています(北原、2021)。
不登校と「感情リテラシー」――見えない気持ちに気づくという支援
不登校は、もはや一部の子どもたちの特別な問題ではありません。
文部科学省の調査(2022)によると、小中学生の不登校は約29万9000人に達し、小学校段階でも増加が顕著です。
こうした「登校しない」という行動の背後には、しばしば、うまく言葉にできない複雑な感情が隠されています。
教室での違和感、友人関係の不安、教師との距離感、自信のなさ――それらの感情を誰にも伝えられず、やがて行動として表出されるのが、不登校という現象です。
不登校についての2024年度の統計(資料3-2)を見てみましょう。
不登校も、校内暴力と同様に、右肩上がりです。1000人あたりで見ると、中学校が急増しています。
小学校はそれに比べると、少ないながらも増えてきています。
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