「感情リテラシー」をはぐくむ――繊細さん・鈍感さんと「感情リテラシー」
「自分の感情に気づく」「他者の気持ちを想像する」「気持ちを言葉で伝える」といった、感情に関する基礎的な力を育むことは、単に感情の安定をもたらすだけでなく、今の時代を生きる土台となる。世界でも注目のSEL(社会性と感情の学習)と感情リテラシーの育て方について第一人者が丁寧に解説。
学校
子どもの激しい怒りに直面したとき、私たちはつい感情的に反応してしまいがちです。しかし、その怒りの中には「わかってほしい」「寂しい」という切実な思いが隠れていることが多々あります。
本書は、そんな子どもの本音を読み解き、感情に関する基本的な力「感情リテラシー」の育て方を丁寧に解説します。
渡辺弥生著書の『怒っている子どもはほんとうは悲しい 「感情リテラシー」をはぐくむ』から一部転載・編集してお届けいたします。
繊細さん・鈍感さんと「感情リテラシー」
最近、「繊細さん」に関する本が多く出版されるようになっています。
日常の些細なことに敏感に反応し、生きづらさを抱えている人が少なくないという背景があるのでしょう。
私は長らく、共感性や思いやりについて研究してきましたが、共感性には、認知的な共感性と、情動的な共感性があるという多次元的な考えがあります。
認知的な共感性は、相手がこのような状況に出逢ったらどんな気持ちになるかを推測できる力です。
一方、情動的な共感性は、同じような悲しみを感じるような力です。
情動的な共感性が強すぎると、相手を助けたいと思っても、自分も感情に揺さぶられ、その場から逃げ出したくなったり、思いに反して何もできない、という情けない状況に陥ることもあるかと思います。
これは決して、優しくない、思いやりがない、ということではなく、感覚過敏であり、感情過敏でもあると思われます。
そこで、「鈍感力を身につけよう」といった自己啓発書も多く刊行されています。
この「繊細さん」と「鈍感さん」の違いは、心理学的には「感受性」や「刺激処理のしやすさ・しにくさ」に関係していると考えられ、いくつかの要因から説明されたりしています。
第一に、神経生理学的な特性(生まれつきの気質)の違いがあります。
いわゆる「繊細さん(HSP:HighlySensitivePerson)」は、外界からの刺激に対して神経系の反応が強く、たとえば音や光、匂い、人の表情などに敏感です。
そのため、処理する情報が多く、深く考えすぎたり、細かいことに気づきすぎて疲れやすくなる傾向があります。
一方、「鈍感さん」といわれる人は、外的刺激への神経系の反応が比較的穏やかで、環境の変化にも動じにくいぶん、落ち着いて行動できることが多いともいえます。
第二に、脳の情報処理の違いも指摘されています。
たとえばfMRI(機能的MRI)を用いた研究では、HSP傾向のある人は、扁桃体や島皮質といった情動・共感・自己意識に関わる脳の部位が活発に働くことがわかっています。
つまり、他者の気持ちや表情のちょっとした変化を敏感に捉え、より深く処理しているという特徴があります。
気質を見分ける助けになる4つの特性として、「DOES」という言葉が用いられたりしています。「D」は「Depth of Processing(処理の深さ)」で、情報をより深く処理する傾向です。
「O」は「Overstimulation(刺激過剰)」で、些細なことでも刺激が強く感じる傾向のことです。
「E」は「Empathy and Emotional Responsiveness(感情的な反応)」のことで、誰かが何かを感じると共感しやすい傾向を指します。
最後の「S」は、「Sensitivity to Subtleties(微妙な感覚の感知)」で、他人が見逃しそうな些細なことについても気がつく敏感性のことを指します。
こうした特性の、特に「E」は、本書での感情リテラシーと関係が深いように思います。
さらに、遺伝と環境の相互作用も、感受性の形成に大きく関わっています。
たとえば、感受性の高い子どもが、「安心して自分を表現できる環境」で育てば、その繊細さは長所として発揮されやすくなります。
逆に、ストレスの多い環境に置かれると、その敏感さが不安や過剰な抑制につながり、生きづらさとなって現われることもあります。
こうした感受性の特性は、発達の過程において、経験を通じて調整されていくものと考えられています。
たとえば、幼い頃は、多くの子が、大きな音や暗い場所を怖がるように、新しい刺激への反応は自然と強く出るものです。
しかし、成長とともに、社会的経験や学習を通じて、「切り替え力」や「刺激をやり過ごす力」を身につけていきます。
そう考えると、“鈍感さん”は、ただ刺激に鈍いだけの人ではなく、むしろ、環境に合わせて生きていく中で、うまく刺激をシャットアウトし、自分の心を安定させる力を身につけてきた人なのかもしれません。
大切なのは、”敏感か鈍感か”の白黒思考よりも、自分の感じ方や反応のクセを知って、状況に応じて自分で考えて動ける「感情リテラシー」を育てていくことではないかと思います。
どんなタイプにも良い・悪いはなく、「もっとこうなりたい」と思えば、少しずつ変わっていくこともできるのです。
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