児童精神科医が本当に伝えたい――「過剰適応」と対処法

20年以上の臨床経験を持つ現役の児童精神科医が、そうした「困った」「どうしたらいいかわからない」「不安だ」という気持ちに寄り添い、少しでも日常生活が楽になるよう、安心できるよう、ご家庭での支援の方法や園、学校で支援を受ける際のポイントなどを解説していきます。

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児童精神科医。某医療機関の院長。精神保健指定医。日本精神神経学会専門医。一般社団法人日本児童青年精神医学会認定医。
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発達障害の子どもの「過剰適応」とは?

親が気を付けたいポイント

①過剰適応の子は「学校ではいい子、家で大変」

②外では緊張を強いられている

③家に帰ってきて倒れこむ子どももいる

知っておきたいポイント

①「学校ではいい子」なので教師は気が付かない

②外で頑張りすぎる時期も長くは続かない

③放置すると最終的には完全不登校になる

もっとくわしく知りたい!

過剰適応の状態の子は「学校ではいい子、家で大変」なのが特徴です。

自宅の玄関を開けるとガラッと人が変わります。

主に母親ときょうだいに対して攻撃性や操作性が見られることがあります。

学校の先生や地域の人々から見ると、「ただの何の問題もない子」にしか見えません。

これは、家族以外の人に対しては対人恐怖が強く、常に高い緊張状態のなかで「いい子」を演じるためです。

本人には、その自覚はないことのほうが多いようです。

そのため、家族が学校に相談しても「学校では問題がありません。ご家庭の問題ではありませんか?」と返されてしまいます。

一方、家では外の世界で頑張ったことの反動が出ます。

私が診察した子どもの中には、イライラして運転中の親の首を後ろから絞めようとしたり、走行中の車から飛び出そうとしたりと、かなり危険な状態であるケースも複数ありました。

家に帰るとどっと疲れが出て、着いたとたんに倒れこんでしまうような子どももいます。

人は誰でも内と外では違います。

家ではそれなりにリラックスしていますが、外ではシャキッと適度に緊張して過ごしますよね。

外の世界の環境に適応するために必要な能力なのです。

ところが、過剰適応の子どもはこれが極端すぎるのです。

「外100:内0」なのです。

重要なことは、こういう過剰な努力で疲れてしまっている子どもが案外たくさんいるということと、この状態は長く続くわけではなく、行き着く先は完全不登校(外100から外0へ)ということです。

では、どのような対策を取ればいいのかを次項でくわしくお伝えします。

過剰適応の子どもにはどう対応したらいいの?

親が気を付けたいポイント

①家族・学校・支援者と情報を共有する

②本人の負担を減らす

③疲れすぎているなら家族も休む

知っておきたいポイント

①「学校ではいい子」なので教師は気が付かない

②外で頑張りすぎる時期も長くは続かない

③放置すると最終的には完全不登校になる

もっとくわしく知りたい!

過剰適応についての続きです。

過剰適応状態の子どものご家族は、どのように対応したらよいのでしょうか?

もちろんそれぞれの子どもによって異なるのですが、私のおおまかな方針を以下で解説します。

①まずは家族や学校、その他の支援者と情報を共有する

過剰適応の状態の子どもは、過剰適応している場所(学校など)での様子と、家庭での様子ががらりと変わります。

これは演技でも何でもなく、本人たちが無意識にしてしまっているようです。

そのため、関係者には、家庭での大変な様子を知ってもらう必要があります。

まず、親御さんは学校の先生やその他の関係者に口頭で、わが子が過剰適応していることを伝えると思いますが、「信じられません」と言われることが少なくないようです。

それもそのはず、家での荒れている様子や、ぐったりしてる様子は、学校その他の場所ではまったく見せないのですから。

父親にさえ見せず、母親ときょうだいにだけ出す子どもも多いくらいです。

このため、私は、学校やその他の関係者に本当だということをわかってもらうため、客観的なデータをとることを提案しています。

具体的には、ボイスレコーダーやスマホで撮った音声や動画などを関係者に見せます。

このとき、気を付けたほうがよいのは、荒れていたり、ぐったりしていたりする本人がそれをとても嫌がり、より大暴れしてしまう恐れがあることです。

撮影や録音のときは、事前に本人の了承が必要だとは思いますが、行うときは、本人にわかりにくいように行ったほうがよいと思います。

家での様子を過剰適応している場所の関係者に知られることは、本人にとってとても嫌なことのようですが、必要なときには仕方ないことだと思います。

②本人の負担を減らす

家族や学校、その他の関係者が、子どもの過剰適応の状況を把握したら、次はその対策を考えます。

前述のように「行き着く先は、完全不登校」ということが多いので、そのような事態をできるだけ避けるためにも、まずは過剰適応している環境で、本人の負担を減らすよう、関係者で考えます。

過剰適応している子どもは、なぜか学級委員や生徒会―いわゆるお世話係などをしていることも多く、本人がやりたがっていたとしても、他の生徒より負担が高ければ辞退するという対策もあります。

学校に行くこと自体が負担であれば、週のうち一日や半日は休むなど、思いきった対策をすることもあります。

このあたりはひとりひとり異なるため、主治医や心理士と相談のうえ、学校と話し合う内容です。

③母親やきょうだいが疲れきっていればレスパイト(休息)的対応も大切

過剰適応している本人が家で暴れたり、攻撃性を示したりしていると、その家族が疲れきってしまう場合があります。

そのようなときは、学校と家庭の中間のような場所を設定することもあります。

具体的には、レスパイト(休息)的に放課後等デイサービス(児童発達支援、児童デイサービス)を利用したり、祖父母の家に通ったりすることです。

とにかく、本人もですが、家族も疲れきって倒れないようにすることが大切です。

私の診察において、発達障害の子どもの過剰適応が続く期間は、最長で5年くらいでしょう。

延々と続くように見えますが、そんなことはないのです。

子ども本人が、社会と折り合いをつけられるようになると収束していくからです。

PROFILE

児童精神科医。某医療機関の院長。精神保健指定医。日本精神神経学会専門医。一般社団法人日本児童青年精神医学会認定医。

てんねんDr.

大学や児童相談所など含め20年以上、子どもの発達障害やこころ分野の診療に携わる。他の医療機関や学校、福祉など地域との連携も積極的に実施。Xでは児童精神科医として情報を発信しており、Xフォロワーは7万人を超える
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