AI時代を生き抜く!「シン読解力」――小3までに1万語を!「語彙と経験」が学力を決める
東ロボくんの開発責任者で、読解力を調査・研究し、受検者数50万人のRSTを開発・普及させてきた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者による待望の続編!
教育
相馬市では、先生たちが国語以外でも教科書研究に励んでいます。
こんなことを述懐された先生がいらっしゃいました。
「6年生の歴史で学ぶ平安貴族のくらしの単元を準備していたときのことです。教科書に『貴族は、琴、琵琶、笛などをたしなみ』という箇所があります。『たしなむ』は、小学生には難しい言葉です。『たしなむ』には『好んでそのことに励む』という意味があります。平安貴族は遊んでいたのではなく、仕事の上で求められる教養として芸事に励んでいたということです。それが伝わるような授業がしたいし、子どもたちに『たしなむ』を語彙として獲得してほしいと思いました。こういうことは、RSTに出会い教科書を深く読み込むまで気づかなかったことです」
そう言えば、ユニークな方法で語彙量アップに成功したご家庭があります。
3男1女を全員東大医学部に合格させたことで有名な「佐藤ママ」こと佐藤亮子さんです。
彼女の著書『3男1女東大理II合格百発百中絶対やるべき勉強法』(幻冬舎)によれば、彼女は「子ども1人あたり(のべ)1万冊の絵本を読む」ということと「子ども1人あたり(のべ)1万回童謡を歌う」ことを実行されたそうです。
なにしろ4人のお子さんがいらっしゃって、特に上の2人は年子だと聞きます。
ストレスフルな年子の子育てで、「早くしなさい」、「ダメでしょう」のような単調なやりとりになりがちになるところを、1万冊絵本を読み、1万回童謡を歌うことで、平均の子の倍以上の語彙を4人のお子さんの身体に浸透させることに成功したのではないかと思います。
小学校入学時に語彙量が1万あれば、スムーズに学習や先生とのコミュニケーションに入っていくことができたに違いありません。
教科書の検定を担当している文部科学省は、各学年でどのような語彙がないと学習をスムーズに進めることができないか、また各学年でどのような学習用語を獲得しなければならないのか、わかりやすいリストを作成して公開すべきです。
そうすれば、きっと学校にとっても参考になるでしょうし、教材会社も、その語彙を獲得するための教材や、どれだけの語彙を習得したかを確認するツールを工夫することでしょう。
もうひとつ、教科書が無意識に前提にしていることがあります。
それは「標準的な生活体験」です。
たとえば、文字盤つきの時計やカレンダーが家の壁にかかっているとか、トランプやすごろくで遊んだことがあるとか、(電子マネーではなく)リアルなお金で買い物をしているとか、電車やバスに乗るとか、なべややかんに水を入れて火にかけて沸かす、といった、昭和の時代には当たり前にどの家庭でも行われていたことです。
共通の生活体験をなにかしら前提にしないと、低学年や中学年の教科書は書きようがないのです。
まさか、小学1年生から抽象概念だけを教えるわけにもいきませんから。
身近な経験(例:10円玉が10個で100円になる)から出発して考えさせ、法則性を見つけ、抽象概念に至るのが、教育の基本的な手法です。
ただ、今は生活のあり方が多様になって、「時間はスマホで見るから時計はない」とか、「オール電化のマンションだから、子どもは火を見る機会がない」とか、「料理は基本、電子レンジで」というご家庭も少なくないことでしょう。
あるいは、公共交通機関が減り、移動はもっぱら自家用車という地域も多いでしょう。
学校の職員室では、しばしば「最近の子は火を見たことがない」とか、「やかんを見たことがない子がいる」とか、「トイレの水を自分で流さないといけないことから教えなければならなくて、低学年指導がたいへん」ということが話題になります。
こうした、期待される「標準的な生活体験」についても、文部科学省はリストを作成し、学校を通じて、入学前の子どもを持つ保護者に情報提供するとよいでしょう。家庭の事情で、そうした体験が得られない子には、地域がサポートして体験が行き届くよう目配りすると、学習の入口がスムーズになります。
国立情報学研究所 社会共有知研究センター長・教授。一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長。
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