AI時代を生き抜く!「シン読解力」――小3までに1万語を!「語彙と経験」が学力を決める
東ロボくんの開発責任者で、読解力を調査・研究し、受検者数50万人のRSTを開発・普及させてきた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者による待望の続編!
教育
土台となる語彙と経験
では、シン読解力はどうすれば身につけられるのでしょうか。
まずは土台づくりが必要です。
学習言語には、独自の文字や語順があるわけではありません。
日本の学習言語は、日本語で書かれています。
学習言語の基盤になるのは、当然、日本語の言葉や文字です。
小学1年生入学時の語彙量は、多い子では7000くらい、平均はその半分程度です。
少ない子は平均の半分程度ではないでしょうか。
子どもの語彙量は、家庭環境(家庭の収入、両親の最終学歴など)に大きく左右されることが、各国の社会調査で明らかになっています。
言葉は、基本的に、身近な大人との会話や大人同士の会話から、経験込みで受け継ぐものなので、子どもの努力だけではなかなか増やすことができません。
語彙が少ないと、先生の話に集中したくても、先生が何を話しているのか理解できません。
少しぐらい知らない言葉やわからない言葉があっても、言葉の意味を予測しつつ、「聞いて理解する」プロセスはある程度柔軟に動作します。
けれど、わからない言葉が多くなると、理解は曖昧になってしまいます。
多すぎるとチンプンカンプンです。
子ども本人の力ではなんともしようがないスタート時点の格差を是正することは、学校の最重要役割のひとつです。
生活語彙が不足すると、学習言語の獲得に支障が出るのですから、そこは学校で補う必要があるでしょう。
保育園や幼稚園の先生が絵本の読み聞かせや、童謡を歌う、歌いながらお遊戯をする、といったことで、体から語彙を獲得させるのはとてもよいことです。
小学校に上がっても、中学年までは、学校の先生やボランティアが絵本や児童書を読み聞かせたり、国語の本を音読したり、みんなで歌を歌ったり、劇をしたりする時間を十分取ることが語彙の獲得に有効です。
似たようなタイプの絵本だけでなく、図鑑など科学的読み物も入れるとさらに語彙が広がります。
学校の先生には、最初は2、3冊、先生が候補を挙げて「今日はどっちを読んでほしい?」と聞いてみることをお勧めしています。
複数の選択肢から選ばせると、なぜか子どものやる気や関心が高まることが認知心理学の実験から知られているからです。
そのうちに、どんな絵本や図鑑を読んでほしいか、子どもたちがリクエストするようになったら楽しいクラスになるのではないでしょうか。
目指す語彙量は小学3年生までに8000語、できれば1万語です。
ただし、語彙量だけでなく、語彙の中に「かさ(嵩)」や「さかん(盛ん)」など、現代の生活ではあまり使わない和語が豊富に含まれているかに注目してください。
それには理由があります。
小学生向けの教科書は、無意識に、ある「理想的な母語の状態」を前提として書かれています。
無意識に、と書いたのは、教科書会社も、検定する文部科学省も、教員を養成する大学も、そのことにまったくと言っていいほど気づいていないからです。
たとえば、小学1、2年生の算数の教科書に「しかたをせつめいしましょう」とか「ますのなかにかきましょう」とか「10のたばでかんがえましょう」という文が登場します。
「しかた(仕方)」や「ます(升)」や「たば(束)」という語彙が獲得できていない子は、何をすればよいかわからないでしょう。
ほかにも「かさをくらべましょう」や「工業がさかんな地域」のような文も出てきます。
「かさ(嵩)」や「さかん(盛ん)」は、最近の家庭ではあまり使わない言葉かもしれません。
このように、教科書や先生が無意識に使う言葉、特に「やさしいはず」だと思って無意識に使う和語を知らないと、困ったことになるのです。
「辞書を使えば、語彙は増やせるのでは?」と思われるかもしれませんが、基本的な語彙が備わっていないと、そもそも辞書を使いこなすことはできません。
三省堂の『例解小学国語辞典(第八版)』を開いてみます。
『例解小学国語辞典』は、ほとんどの小学生が使っているのではないかと思われるほどシェアの高い国語辞典で、RSTでも「具体例同定(辞書)」の問題の多くを、この辞典を使って作問しています。
算数の文章題には「交互」という言葉がよく使われます。
「赤玉と白玉を交互に並べる」のような場面です。
「交互」の意味がわからなくて調べたとしましょう。
すると、次のように書いてあります。
交互......代わる代わる。たがいちがい。
例:右と左、交互に手をあげる。
「代わる代わる」も「たがいちがい」も知らない子はどうすればいいでしょう。
「たがいちがい」を辞書でひけばいいのでしょうか。
たがいちがい......異なる二つのものが、順番に入れかわること。代わる代わる。
また「代わる代わる」が出てきてしまいました。
難しい言葉をよりやさしい言葉に置き換えることで、言葉の意味を文で伝えることが辞書の役割です。
つまり、辞書は、「この世界を無理なく表現するために必要な和語を十分身につけている」子が使って、初めて意味がある書物なのです。
「工業がさかんな地域」のような単元では、授業で「工業」は説明しますが、「さかん」を基本語彙として説明する先生はそれほどいないのではないでしょうか。
「さかん」が語彙として獲得できていないと、子どもの感覚からすると「工業がホゲホゲな地域」と言われているのと変わりません。
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