AI時代を生き抜く!「シン読解力」――小3までに1万語を!「語彙と経験」が学力を決める
東ロボくんの開発責任者で、読解力を調査・研究し、受検者数50万人のRSTを開発・普及させてきた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の著者による待望の続編!
教育
AI研究の第一人者が解き明かす、学力とキャリアを変える新しい「読み方」。複雑な情報を正確に読み解くシン・読解力の具体的なメソッドを伝授します。
あなたの市場価値を高める思考術!新井紀子先生著書の『シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方』から一部転載・編集してお届けいたします。
バックキャスティングで教育すべき内容を決める
最初にあるべき未来の姿を描き、そこから逆算して現在すべきことを考える思考法をバックキャスティングと言います。
教育はまさに「どのような人材を育てたいか」から逆算して、今すべきことを決めていきます。
ただし、いくら「このような人材を育てたい」と思っても、無理なことが多々あります。
その筆頭に挙げられるのが、「天才を育てる」ことです。
その字の如く「天が授けた才能」あってこその天才です。
教育によって天才を生み出すことはできません。
教育プログラムと本人の努力でなれるのは、天才ではなく秀才です。
もうひとつ、最近話題になっている教育のバズワードに「非認知能力」があります。
知能テストや学力テスト、運動能力のように測って数値化できる能力を認知能力と呼ぶとき、それ以外の、つまり数値化できない能力を非認知能力と呼ぶようです。
非認知能力というと、優しさややる気のようなものに注目が集まりがちですが、帰属意識の高さと独立心、あるいは危険なことにひかれる傾向とそれとは逆の慎重さなど、相反するタイプの能力もそれぞれ非認知能力です。
非認知能力が高い人を育てることを教育目標のひとつとして掲げることには反対しません。
思いやりや友情を育み、責任感などを持たせることに異論はありません。
ただ、なにしろ測れない能力なので、どのような教育が非認知能力を高めるのか判断のしようがないことは問題です。
それを教員個人が主観で評価することは、果たして適切なことでしょうか。
各先生が、「非認知能力こそが21世紀には必要な力だと専門家も言っています。私は認知能力より非認知能力を重要視して教育をしていく」と言い出して、それぞれが「これこそが大切な非認知能力だ」と考える能力を評価しだしたら、教育に公平性や中立性が失われ、さらに言えば、子どもの精神的自由を侵害することにならないでしょうか。
私のような、友だちが少なく、協調性が低く、先生に反抗ばかりするくせに成績だけはよい憎らしい子どもにとっては息苦しいほど、昭和の時代から日本の学校では非認知能力が重要視されてきました。
それ自体を否定しようとは思いません。ただ、してはいけないことがあります。
それは、非認知能力が注目されているからといって、認知能力育成を怠ったり、達成できないことの言いわけに使ったりすることです。それでは「学校」という社会システムの根本が揺らいでしまいます。
もうひとつ、教育でバックキャスティングする上で忘れてはならないことがあります。
「今いる人材で達成可能か」という視点です。
企業の場合は投資をして従業員を増やすこともできますが、学校はそういうわけにはいきません。
必要に応じて教員を増やすことすら簡単ではありません。
いまやどこの学校も労働過多、人員不足に悩んでいるのが実態です。
となると、今教壇に立っている先生に無理がかからない範囲でバックキャスティングする必要があります。
たとえば「小学校から英語教育」と急に言われても、そのように養成されてこなかった小学校教員は大いに戸惑ったはずです。
決まったことに従わせれば、無理が生じます。
教員に多くを求め続けて、学校現場が多忙になる一方だったことを反省しなければなりません。
「ブラック」の代表格のように言われ、先生のなり手が少ない現状を考えると、教育施策に求められているのは、さらに多くを教育現場に求める「足し算」ではなく、むしろ「引き算」です。
育成すべき人材像の設定を明確にし、そこから、今いる先生方ができる形でバックキャスティングすることが大切です。
私が提案するのは、すべての子どもが「独学する方法を身につけている」状態で学校を卒業することです。
独学できる前提として、誰もが胸を張って、「教科書くらいは自分で読んでわかる」ことを目標として設定します。
その目標が達成できたかは、(体育などの実技と英語を除いては)RSTで測定することができます。
そして、シン読解力が一定以上習得できれば、学習指導要領と教科書に沿って教えることで、どの学校でも学力は自然に上がります。
RSTの能力値と各種学力テストとの間に、0・4~0・7程度の高い相関係数が安定して出ていることが、まさにそれを示しています。
重要なのは、どの先生でも無理なく実行できるような、シン読解力を身につけるための教育プログラムを開発することです。
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