【掲示板の声×公認心理師】「うちの子は大丈夫?」子どもの性被害と性教育、親が知っておきたいこと(第1回)

「気持ち悪い」という直感、家庭内性虐待、親子の境界線――子どもの性被害から子どもを守るために、親が知っておきたいことを公認心理師に聞きました。

親子関係

公認心理師
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【掲示板の声×公認心理師】「うちの子は大丈夫?」子どもの性被害と性教育、親が知っておきたいこと(第1回)

「ニュースで子どもの性被害を目にするたびに、ちょっと怖くなる」

「気をつけなきゃと思うけど、何をどう教えればいいのか分からない」

「ハグやお風呂は、いつまでが普通で、どこからが心配なのか」

てつなぎの掲示板には、子どもの性被害や性教育にまつわる声が、ぽつぽつと、でも確かに寄せられています。特に、子どもが成長して身体や人間関係が変化していく時期になると、「うちの子は大丈夫?」という不安と、「過剰に怖がりたくない」という気持ちのあいだで、揺れる親も少なくないようです。

内閣府の調査によれば、最も深刻だった性被害の加害者は7割以上が「顔見知り」。家庭内、学校、オンラインと、私たちが思う以上に身近なところで起きていると言われています。でも、扱いづらいテーマだからこそ、メディアでもなかなか取り上げられず、親はニュースを見て不安になるばかり...。そんな状況があります。

てつなぎでは、掲示板に寄せられる声に寄り添いながら、専門家と一緒に考える連載「【掲示板の声×公認心理師】」を展開しています。

教育・福祉・メンタルヘルスの現場で約20年間支援を続けてきた公認心理師・カウンセラーの田村俊作先生に、子どもの性被害の実態、親が感じる「気持ち悪い」という直感の意味、家庭でできる性教育について、てつなぎ掲示板の投稿をもとにお話を伺いました。

親が感じる「気持ち悪い」その直感は何を守ろうとしているのか|境界線と無自覚な無知

てつなぎ編集部
掲示板を見ていると、家庭の中での何気ない言葉や態度に「気持ち悪い」と感じてしまったという投稿が、いくつもあります。

たとえば、こんな投稿がありました。

会社の飲み会で、同僚のお父さんたちが自分の娘の身体や下着のことを笑いながら話題にしていて、もう聞いていられなかった。本人たちは「ウケるでしょ?」みたいなノリで言っているけど、今の時代なら絶対に処分確定でしょ。
(今の時代なら処分確定でしょ/匿名 さん/30代/ 投稿を見る

読んでいて、思わず「わかる」と頷いた人もいるかもしれません。こうした「気持ち悪い」という感覚は、どこから生まれるものなのでしょうか。
田村先生
これは“バウンダリー”、つまり“境界線”の問題ですね。“自分の所有物”のように見てしまう感覚が強いのかな、というのはあると思います。大きく言えば“セクハラ”だと思うし。同時に、こういう発言が出てしまうのは、やっぱり“無知”というところなんだろうなとも思います。

あと、これを言っている“場面”もあまりよくないんですよね。周りの人に聞かれるような。これだと、笑いのネタにしているような感じも、多分“気持ち悪さ”としてはあるのかなとは思います。
てつなぎ編集部
「こんなことを言ったら引かれるんじゃないか」「いやらしく見られるんじゃないか」ということも、わかっていないんでしょうね。

娘さんが成長して、女性の体になっていくのを「健康に育ってきているな」と見るのは、健全な親の心だと思うんですよね。でも、その視線が「ブラジャー」「身体つき」といった方向に向くと、途端に“気持ち悪さ”に変わる気がします。

同じ「気づき」でも、その向け方ひとつで意味がまるで変わってしまうんじゃないかなと思いました。

「気持ち悪い」は無視しないほうがいい|親の直感は心理的なセンサー

てつなぎ編集部
こういった親が感じる「気持ち悪い」という直感は、どう捉えたらいいでしょうか。
田村先生
“違和感”ですよね。違和感ってすごく大事だと思いますよ。子どもが「気持ち悪い」と感じているんじゃないかな、というところに寄り添う、ということはとても大事だと思います。
てつなぎ編集部
先ほど「バウンダリー(境界線)」という言葉が出ましたが、親子の間ではどう意識すればいいでしょうか。
田村先生
ある程度、“人との境界線を保つ”ということが、親と子の間でも大事になってくると思います。

「子どもだから親がなんでも守ってあげなくちゃいけない」という考え方が、今だいぶ変わってきていますよね。子どもも、大人になっていく途中の“一人の人間”なんですよね。子ども自身の尊厳がある。『子ども基本法』もあるくらいですから。

子ども自身の尊厳を守ること、そして適切な愛情のかけ方。その両方が、やっぱり必要なんだと思います。

📘 編集部注:「こども基本法」について
「こども基本法」は、令和5年(2023年)4月に施行された法律です。日本国憲法と「子どもの権利条約」の精神にもとづき、すべての子どもについて「個人として尊重されること」「基本的人権が保障されること」「差別的取扱いを受けないこと」「意見が尊重されること」などを基本理念に掲げています。
参考:こども家庭庁「こども基本法」 https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo-kihon

「顔見知り7割」の裏で|家庭内で起きていること、加害が生まれる構造

てつなぎ編集部
子どもへの性被害は、“見知らぬ人”から起きると思いがちかもしれません。でも、内閣府が令和4年(2022年)に公表した調査では、若年層が経験した最も深刻な性被害について、加害者の7割以上が「顔見知り」だったと報告されています。

出典:内閣府「若年層の性暴力被害の実態に関するオンラインアンケート及びヒアリング結果報告書」(令和4年3月)
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/r04_houkoku.html

「顔見知り」が7割以上。学校や職場の関係者、ネット上で知り合った人などが含まれますが、「親密な人」(交際相手、親、きょうだいなど)からの被害も17.6%と決して少なくありません。 「知らない人だから危ない」とは言い切れない。そんな現実が、この数字から見えてきます。

 家庭の中で起きている性虐待|相談できない子ども、黙認する親

てつなぎ編集部
この数字にも驚きますが、実際は、なかなか表に出てこない被害も多いと言われています。なぜ、表に出てこないのでしょうか。
田村先生
やっぱり、相談しづらいんだと思います。相談してはいけないんじゃないかと思うんじゃないかなと。こういうことは恥ずかしいことだみたいな感じで捉えると、相談しなくなるんでしょうね。
てつなぎ編集部
親が気づいていても、言わないというケースもあるのでしょうか。
田村先生
こういう時って、親も気づいているケースは少なくないんですよね。むしろ黙認しているということの方が多かったりする。気づいているけど言わない、みたいな。
てつなぎ編集部
そうなんですね...。そうやって表に出ないまま、被害を受けた子どもだけが抱えて大人になる、というケースが多いのでしょうか。
田村先生
その方が多いと思います。
てつなぎ編集部
事件として表に出てくるのは、氷山の一角ってことですよね。先ほどの「子どもへの性被害」の内閣府データも、「事件として明るみに出て、相談されたもの」が集計の対象なので、実際の被害はもっと多いはずですよね。

「相談がないから、被害がない」のではなく、「相談できないから、被害が見えない」。その構造そのものが、この問題の重さでもあるのかもしれません。

加害者の「構造」|バウンダリー欠如、自己中心性、歪んだ合理化

てつなぎ編集部
親自身が加害者になるケースは、どのような構造で起きているのでしょうか。
田村先生
一つは、さきほども話した“バウンダリーの欠如”だと思います。例えば加害者自身が幼少期に守られた経験がなくて、欲望を満たすために子どもを“道具”のように扱う。大切にされなかった経験が、その後の関わり方に影響することもあります。

あとは“ストレスの発散”。不適切な対処法でしょうね。それから、自分は悪いことをしていないんだという認識。“歪んだ合理化”ですかね。
てつなぎ編集部
「しつけでやった」という言い訳、よく聞きますよね。
田村先生
よくある話ですね。
てつなぎ編集部
「しつけ」「教育的意味」という言葉で自分を納得させてしまうから、本人には「悪いことをしている」という感覚がない。だから止まらないし、周りも気づきにくいのかもしれませんね..。

「愛情」と「侵害」の境界線|ハグ・お風呂・スキンシップ、どこからが心配?

てつなぎ編集部
掲示板にはこんな投稿がありました。

パパが大好きすぎる娘。嫉妬深すぎるだろ〜って呆れるくらいにパパラブ。パパの隣は絶対に死守! パパとお風呂入るのも私だけ!! パパと手をつなぐのは私だけ!!
(匿名 さん/30代/ 投稿を見る

ほほえましい、ごく自然な家族の光景ですよね。子どもがパパに思いきり甘えられる、という関係性は、家族の中に安心と信頼があるからこそ生まれてくるものなんだと思います。

ただ、子どもが成長していく中で「いつまでスキンシップしていいのか」「どこからが心配なのか」と迷う親も多いと聞きます。

一方的かどうか|「相互の合意」がある触れ合いは愛情になる

てつなぎ編集部
愛情と侵害の境界線をどう考えたらいいでしょうか。
田村先生
ポイントは、それが「一方的」かどうかだと思います。親が一方的に愛そうとしている、所有感の確認とか、自分が癒されたいとか、自分の欲求を優先したときに、侵害になり得る。

逆に、子どもが何かでミスをして落ち込んでいる時に「大丈夫だよ」とハグするのは、侵害にはならないんですよ。子どもの方が安心したい、慰めてほしいという気持ちがあって、それを親が受け止める形になっているからです。

ハグは、お互い、子どもも親も、安心したい、安心させたいという気持ちの「相互の合意」があってこそ成立するもので。そこら辺の違いかなと思います。
てつなぎ編集部
「子どもが喜んでいるか」をちゃんと見ることが大事、ということですね。
田村先生
そうですね。あと、“力関係”というのは大きいと思いますけどね。
てつなぎ編集部
確かに。親と子では、そもそも力関係に差があるから、その時、子どもが「心から喜んでいる」のか、それとも「親の機嫌を察して合わせているだけ」なのか、大人の側がちゃんと見る必要がある、ということですよね。
田村先生
そう。「親の機嫌だけ取ってないかな」っていう。
てつなぎ編集部
そうですよね。たとえばお風呂も、自然に一緒に入れていた時期もあれば、子どもがちょっと誘いに乗らなくなるとか、嫌そうな雰囲気を出すこともある。そういう時に“やめる”判断をするのが自然な距離感、だと思うんですよね。逆に、嫌な反応が出ているのに強引に入ろうとしたら、そこはもう...
田村先生
アウトですね。侵害になる。
てつなぎ編集部
…ということですよね。親子のスキンシップそのものは、大事な時間だと思うんですけど、その時に親として意識しないといけないことが、「子どもの反応はどうか」「お互いの合意があるか」ということ、ということですよね。 同じ“ハグ”や“お風呂”でも、その時々の子どもの気持ちに目を向けているかどうかで、意味が変わってくるのかもしれませんね。

愛情と侵害はグラデーション|だからこそモニタリングが大事

てつなぎ編集部
ここまでお話を聞いていて感じるのは、「愛情」と「侵害」ってはっきり線で区切れるものではなくて、同じスキンシップでも、その時の子どもの気持ちや状況によって愛情にも侵害にもなり得る、という理解であってますか?
田村先生
そうですね。愛情と侵害って、すごく“スペクトラム”のようにある。グラデーションですよね。だからこそ、「自分は親としてこの振る舞いでいいのかな」って、(その問いを)持ち続けることなんだろうなと思います。お子さんが喜んでいるかな、というのを、ちゃんとモニタリングすることも大事だし。
▼ あわせて読む

親子の境界線という観点では、過干渉の背景と対処法もあわせて読むと理解が深まります。
▶ 親の過干渉とは?状況の理解と具体的な対処法

「ちゃんとした人」に見えても、なぜ起きるのか|ハロー効果と組織の沈黙

てつなぎ編集部
ここまでは、家庭の中での親と子の関わりについて伺ってきました。 でも、子どもが過ごす場所は家庭だけではありませんよね。学校、習い事、塾など、家庭の外で出会う大人の中にも、信頼している相手のはずなのに...、ということが起きてしまっている現実があります。

掲示板にはこんな投稿がありました。

公園で遊んでいた小学生の頭を教師が叩いた…覚せい剤所持で逮捕…。女子トイレ侵入、女児を盗撮、10代の女性に抱きつく…。実直、誠実、生徒思いの先生もたくさんいるのに…。あと1年ちょっとで長男も小学生になるんだけど、教師ガチャ失敗したらやばいなと思う。
(まゆぞん さん/お子さん4〜5歳/ 投稿を見る

「実直、誠実、生徒思いの先生もたくさんいるのに」というこの一文に、投稿者の方の葛藤がにじんでいるように感じます。

信頼したい気持ちと、ニュースを見るたびに不安になる気持ち。その両方を抱えながら、子どもを送り出す日々。

「まさかあの人が」と思える人物による事件が、なぜ後から明らかになるのか。田村さんに聞きました。

ハロー効果|「あの人がそんなことするはずない」という思い込み

てつなぎ編集部
「ちゃんとした人に見えてもなぜ起きるのか」という問いについて、どう思いますか。
田村先生
一つは、やはり“ハロー効果”ですね。「こういう立場のいい人はやらないだろう」というような思い込みもあると思います。

あとは組織的に事案を潰してしまう、いわゆる“隠蔽の構造”もあるだろうし。それから、「これは教育的に意味があるんだ」と周りを納得させて、行為を正当化していくようなケースもあるんじゃないかなと思いますけどね。

※ハロー効果:地位や見た目が良い人は、それ以外の面も良いと思い込んでしまう心理バイアスのこと

てつなぎ編集部
「あの人がそんなことをするはずない」という感覚自体が、バイアスになっているということですね。
田村先生
「あの人がそんなことをするはずない」というのも“思い込み”なんですけどね。「名誉ある人はやらないだろう」というのも、完全にバイアスじゃないですか。

ハロー効果、多いですよね。「こういう人がやらないだろう」という思い込みは。

制度の動き|性犯罪歴の確認制度(こども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS))の導入へ

てつなぎ編集部
制度の面でも変化があるそうですね。
田村先生
そうですね。東京都は、今年度の職員採用で、過去の性的事案の有無を申告させる制度が行われていると思います。
てつなぎ編集部
いいですね。海外はかなり厳しいと聞きますよね。ボランティアであっても性犯罪歴のチェックが入る、というような。でも日本は、まだそういったチェックが行き届いていないところが多いように感じます。

「社会的にいいことをしている人」「ちゃんとした人」と見える人ほど、信頼を盾にされてしまうこともある。被害者は声を上げにくく、問題が隠されたまま続いていく...というような、そういう構造って、周りを見ててもある気がします。
田村先生
ありますね。ジャニーズなんかも、その例ですよね。
てつなぎ編集部
「ちゃんとした人」「肩書きのある人」というだけで安心せずに、ちょっとだけ自分の感覚を信じておく。それも、子どもを守るための第一歩なのかもしれませんね。

📘 編集部注:「こども性暴力防止法(日本版DBS)」について
国レベルでは、令和6年(2024年)6月に「こども性暴力防止法」(正式名称:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)が成立し、令和8年(2026年)12月25日に施行される予定です。
イギリスのDBS(Disclosure and Barring Service)を参考にした制度で、「日本版DBS」とも呼ばれています。学校・保育施設・児童福祉施設などの設置者は、子どもと接する業務の従事者について、こども家庭庁を通じて性犯罪歴の有無を確認することが義務化されます。学習塾・スポーツクラブ・認可外保育施設などの民間事業者も、申請して認定を受けることで制度の対象になることができます。
また、東京都教育委員会では令和5年(2023年)3月に「教職員等による児童生徒性暴力等が発生した場合の初動対応」を策定し、教職員による性暴力事案に対する迅速な対応の枠組みを整えています。
参考:こども家庭庁「こども性暴力防止法」 https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/efforts/koseibouhou

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「しつけ」「教育的意味」と合理化されて行われる行為が、子どもにとっての侵害になることもあります。
▶ 子どもに良かれと思ってやったのに…親心の陰に潜む教育虐待とは?

▼ 続けて読む

第1回では、子どもの性被害や親子の境界線、家庭内性虐待について伺いました。
では、親は子どもに何を伝えればいいのでしょうか。
第2回では、セクストーションやSNSトラブルの実態、そして家庭でできる性教育について、公認心理師の田村俊作先生に伺いました。
▶ 【掲示板の声×公認心理師】子どもの性被害と性教育、親が知っておきたいこと(第2回)

PROFILE
公認心理師。教育現場でのカウンセリングを中心に、中学校や行政機関、地域の相談窓口などで子ども・保護者・大人の支援を行い、スクールソーシャルワーカー、精神保健相談員としても活動。教育・福祉・保健医療・メンタルヘルスの現場を横断的に経験し、現在は都内の学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)でスクールカウンセラーとして活動中。
【相談先】 ⚫︎ 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター 全国共通番号 #8891(はやくワンストップ)
⚫︎ 児童相談所虐待対応ダイヤル#189(いちはやく)
⚫︎ 警察相談専用電話#9110

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