『AIは臨床試験を経ていない薬』──生成AI時代に親が手放してはいけない視点とは
不安な時代だからこそ、AIに丸投げせず『一緒に悩む』大人でいるために
インタビュー
『AIは臨床試験を経ていない薬』──生成AI時代に親が手放してはいけない視点とは
てつなぎ編集部
新しいテクノロジーに「とりあえず使わせてみよう」という社会の空気に対して、先生が強い危機感を抱いておられることに大きくうなずきました。 そして、五感を通した経験の乏しさが「何かが欠けた大人」につながるかもしれないという視点は、親として、胸に刺さるメッセージだと受け止めています。
その視点から見ると、まさに言語を習得している途上の子どもが生成AIと会話することには、どのようなリスクや懸念が潜んでいるとお考えでしょうか。
その視点から見ると、まさに言語を習得している途上の子どもが生成AIと会話することには、どのようなリスクや懸念が潜んでいるとお考えでしょうか。
川原先生
1つは、先ほど申しあげた、情報の偏りです。画面越しの視覚と聴覚に依存したコミュニケーションに偏ることで、身体を通した豊かな経験や、触覚を伴う関わりが十分に育たず、そのことが言語や心の発達に影響するのではないかと懸念しています。たとえば、現在のAIと対話してばかりでは、表情から相手の気持ちを読み取る、といった能力がしっかり育たないでしょう。
もう1つ、大きな問題だと考えているのが「共同注意」です。共同注意とは、保護者と子どもが同じ対象や体験を共有しながら、それについて言葉を交わす体験のことです。「見て、ワンちゃんがいるね」「このお花きれいだね」「今日は風が気持ちいいね」といった、ある意味、とても日常的な体験です。しかし、共同注意は、「心の理論」、つまり他者の心を推察する力の発達にとって重要なことが知られています。けれど、AI相手では、この共同注意を体験することができません。
その結果として、人の気持ちが分からない子、共感する力が弱い子が増えてしまうのではないかと危惧しています。 皮肉なことに、現在の対話型AIは共感的な言葉を次々と返してくれますが、そうしたAIと接すると子どもたち自身の共感する力が育たない可能性があるわけです。さらに、AIは反応が速く、肯定的な返答をしてくれるよう設計されているため、幼い頃から1対1でAIとだけ会話する習慣がつくと、人間同士の、時として面倒で時間のかかる対話が耐えられなくなり、AIに依存してしまったり、ほんものの人間関係が困難なったりしてしまうことも心配しています。
もう1つ、大きな問題だと考えているのが「共同注意」です。共同注意とは、保護者と子どもが同じ対象や体験を共有しながら、それについて言葉を交わす体験のことです。「見て、ワンちゃんがいるね」「このお花きれいだね」「今日は風が気持ちいいね」といった、ある意味、とても日常的な体験です。しかし、共同注意は、「心の理論」、つまり他者の心を推察する力の発達にとって重要なことが知られています。けれど、AI相手では、この共同注意を体験することができません。
その結果として、人の気持ちが分からない子、共感する力が弱い子が増えてしまうのではないかと危惧しています。 皮肉なことに、現在の対話型AIは共感的な言葉を次々と返してくれますが、そうしたAIと接すると子どもたち自身の共感する力が育たない可能性があるわけです。さらに、AIは反応が速く、肯定的な返答をしてくれるよう設計されているため、幼い頃から1対1でAIとだけ会話する習慣がつくと、人間同士の、時として面倒で時間のかかる対話が耐えられなくなり、AIに依存してしまったり、ほんものの人間関係が困難なったりしてしまうことも心配しています。
てつなぎ編集部
今後の活動として、どのようなことに取り組んでいきたいと考えていらっしゃいますか。
川原先生
小学生以下については「AIは使わない方がいい」という信念は揺らいでいませんし、中学生も、できれば使わない方がいいと考えています。 一方で、高校生以上になると、現実的には「使うな」と言っても、すでに使っている子が多いでしょうし……でも、使うなら使うで、「どう依存せずに付き合うか」「どこまで何を相談してよいのか」といったリテラシーが重要になります。AIの開発や使用が、地球環境に負荷を与えているという事実も知ってほしいですね。
今後は、特に高校生以上や大人に向けて、「AIとの健全な関わり方」をテーマにした発信に力を入れていきたいと思っています。具体的には、依存の問題やAIの環境コストなど、AI倫理に関するさまざまな問題を、楽しみにながら考えられるような内容の書籍を、KADOKAWAから出版する予定です。
今後は、特に高校生以上や大人に向けて、「AIとの健全な関わり方」をテーマにした発信に力を入れていきたいと思っています。具体的には、依存の問題やAIの環境コストなど、AI倫理に関するさまざまな問題を、楽しみにながら考えられるような内容の書籍を、KADOKAWAから出版する予定です。
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てつなぎ編集部
最後に、本書の読者や、これから生成AI時代の子育てをしていく保護者・教育者の方々に向けて、伝えておきたいメッセージをお願いします。
川原先生
子育ては毎日が大変ですし、これからの時代がどうなっていくのか、自分の仕事や子どもの将来の仕事がどうなるのか、不安を抱えてらっしゃる方も多いと思います。 どんな教育をすれば、どんな仕事に適応できるのかも見通しづらい時代ですから、その不安はとてもよく理解できますし、私自身も同じ不安を抱えています。
その中で、1つだけはっきり言えるのは「AIに丸投げだけはしないでほしい」ということです。AIをどう捉え、どう使うかを大人が主体的に考えながら、子どもを見守っていく姿勢が何より大切だと思います。何が正しいかまだ誰にも分からない段階だからこそ、一緒に考え、一緒に悩みながら、子どもたちを守るためのより良い道を探っていきましょう、とお伝えしたいです。
その中で、1つだけはっきり言えるのは「AIに丸投げだけはしないでほしい」ということです。AIをどう捉え、どう使うかを大人が主体的に考えながら、子どもを見守っていく姿勢が何より大切だと思います。何が正しいかまだ誰にも分からない段階だからこそ、一緒に考え、一緒に悩みながら、子どもたちを守るためのより良い道を探っていきましょう、とお伝えしたいです。
てつなぎ編集部
目まぐるしく変わる情報社会に振り回されてしまいがちですが、子どもとの対話を通じてより良い道を探っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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著者
慶應義塾大学言語文化研究所教授。国際基督教大学訪問研究員。
2002年、国際基督教大学卒業。2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)取得。ジョージア大学、ラトガース大学を経て現職。専門は言語学・音声学
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