本を味方に!『読書習慣をつくる科学的方法』は存在するのか

結局、読書にハマらなくても、動画メインでもOK!「読書の効果」を無理なくいいとこ取りしよう。「頭がよくなる」だけじゃない、探究心・知的好奇心・思いやり・友達や周囲の大人とのコミュニケーション力が身につく読書のすすめ。

教育

教育心理学・認知科学者。北里大学一般教育部准教授
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子どもに本を読んでほしいけれど、どんな本をどう選べばいいかわからない…。そんな悩める保護者に贈る、読書教育の決定版が登場。読書が脳や言語能力に与える真の影響を、最新の研究を基に解説します。
猪原敬介著『科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」』から一部転載・編集してお届けいたします。

「読書習慣をつくる科学的方法」は存在するのか

ここからはもっと具体的な話をする、と書いておいてなんではあるのですが、その前にあるひとつの「魅惑的な考え」を否定しておくほうがよいと思います。それは、

科学的に裏付けられた「テクニック」を使えば、うちの子もすぐに読書習慣をつくることができるはず

という考えです。

断言しますが、「100%全員に有効で、すぐに読書習慣が確立するテクニック」などというものは存在しません。これは諦めてください。詐欺にあってお金と時間を無駄にする前に、一刻も早く煩悩を断ち切りましょう。

一方で、「100%ではないし、時間はかかるが、読書習慣をつくるために有効であることがエビデンスによって示されている王道的方法」はあります。

こちらを見てみましょう。

例えば、アメリカの225校の小学校が協力して、その学年の中でも読み書きの成績がもっとも低い1年生1334名を対象に「教師と生徒が1対1で、1回30分のセッションを毎日、12~20週間行う」という大規模な読書介入研究があります。

結果として、介入によって読み書きの成績が上昇するとともに、読書動機づけ(読書好意度や自分にとっての読書の重要性などを反映したもの)の高まりが確認されました。

読書動機づけが高まっているのですから、おそらく1334名の参加者のうちの何割かの児童は、読書習慣の形成まで漕ぎつけたに違いありません。

日本では、大学生を対象とした研究ではありますが、九州大学(当時)の寺田正嗣さんが行ったものがあります。

「36名への対面講座3日間とオンライン講座2週間」の読書介入で、介入前と比べて、介入後3ヵ月間の読書量が増加したことが報告されています。

これも、3カ月間だけとはいえ、実際に介入後に読書量が増えているわけですから、参加者3名のうちの何割かの人は、読書習慣をつくるところまでいったかもしれません。

これらの研究には、それぞれ「読書習慣を確立させるためには、ただ1人で本を読むよりも、なにか特定のやり方で読書をしてもらうほうがいいに違いない」という仮説があります。

そのため、「ただ本を読んでもらう」という介入をするのではなく、ある「テクニック」を加えた介入を行います。

例えば、

関心のある本を子どもが主体的に選ぶ

まず本の概要をつかんでから、本格的に読み始めるようにする

精読にこだわらずに、楽しく読めることを重要視する

1回で理解しようとせずに、読み返しを推奨する

わからない部分は教師に質問できるようにするが、教師のサポートは段階的に外していく

本についてなんらかの社会的コミュニケーション(保護者や友人に本について語る、SNS上で本についての投稿をする、など)を行う

といったテクニックを含んだ介入を行います。

しかし実際のところ、これまでの研究では、これらの「テクニック」と「ただ本を読む」のどちらが読書習慣の形成に効果的なのかを分離できていません。

むしろ、「ただ本を読む」だけでも読書へのポジティブな態度を育てる効果があるようです。

小学校~高校で、それぞれの児童や生徒が好きな本を「ただ読む」ことを、1日に10~15分行う介入研究を、メタ分析(多数の研究を再分析することで、より信頼できる結果を提供する分析法)した研究があります。

その結果、語の発音の正しさや読書スピードの向上に加えて、読書へのポジティブな態度が高まったことが明らかになりました。

読書へのポジティブな態度が高まったわけですから、介入によって読書習慣をつくることに成功した児童・生徒もいたことでしょう。

1日に10~15分「ただ読む」ことを行うというのは、日本でいうところの「朝の読書」の効果に近く、とても興味深い研究結果です。

何が述べたいのかといいますと、

読書習慣をつくるためには、結局は地道に「子どもが本を読む回数を増やす」ことが有効

ということです。

こうした「王道」が効果を持つことは、先ほど紹介したようなエビデンスが十分にあり、自信を持って言い切ることができます。

誤解しないでほしいのですが、「テクニック」が重要でないわけではありません。ぜなら、これらの要素は、「楽しい読書」をする前提を整えることに寄与するものだからです。

関心のある本を選び、教師の助けも借りながらしっかり理解し、その本を通じて社会的コミュニケーションも促されるならば、「楽しい読書」になりやすいことは想像できますよね。反対に、関心がなくて理解できない本を読まされれば、誰でも読書が嫌になるはずです。

楽しい読書ができる子どもは、長く、多く、読書をすることでしょう。

その結果が「読書習慣」となるわけです。

言い換えれば、「親が子どもの読書習慣をつくる」とは、「子どもが楽しい読書ができるように、親ができる範囲で条件を整えてあげる」ことなのです。

そこで、本書のこれ以降では、「子どもが楽しい読書ができるための条件を整える」

方法を多数紹介していきます。

子どもの楽しい読書のために、頑張って工夫をしていきましょう。

実は、どんな子も面白い本との出合いを待ち望んでいる!

スタートアップ期(読書活動の立ち上げの段階)においては、「子どもは面白い本との出合いを待ち望んでいる」ということを、疑いのない「前提」として置いてしまいましょう。

そもそも小学生や中学生の時分というのは、読書が好きな子どもが多いのです。実際、全国学力テスト(2025年度)の「読書は好きですか」という質問への回答を見ると、

小学生の7割は読書好き(「当てはまる」が36.7%、 「どちらかといえば、当てはまる」が33.2%)

中学生でも6割は読書好き(「当てはまる」が30.4%、 「どちらかといえば、当てはまる」が31.3%)

なのです。

そのため、この前提はそれほど無理のあるものではありません。

こうした前提を置く理由は、まず保護者の方の脳裏をかすめる「子どもに読書を勧めることは正しいのか?」という疑念に対して、一応の答えを出しておくことが大切だからです。

読書を勧めるアプローチは長期にわたり、その過程では、保護者の方の労力、経済的な出費、場合によっては子どもからうるさがられるなどの精神的ストレスも生じます。

「なぜ自分はこれをしているのか」と自問することもあるでしょう。

そこを耐えて、粘り強くアプローチしていくために「あくまでもこれは子どものためにしているのだ」という信念が必要になります。

そこで「子どもは面白い本との出合いを待ち望んでいる」ことをまずは信じましょう。

そして行動しましょう。行動した結果、うまくいって、子どもが読書に親しみ、子どもにとっての「一生ものの本」に出合えれば万々歳です。

もし間違っていても、それは貴重な進展

一方で、行動した結果、うまくいかないかもしれません。

かなりのコストを投入したのに子どもに読書が定着しなかった、ということは、現実にはありえます。

しかしこの場合には、行動しなかった場合よりも、子どもへの理解が進んだと考えます。

保護者が「万策尽きた......」と思えるほどアプローチしても、子どもは読書を受け入れなかった。これは子どもの特性を理解する上で、とても貴重な情報だと思います。

子どもが待ち望んでいたのは面白い「本」じゃなかった

だったら、別の何なのだろう?

このように考えることができます。

まずは「子どもは面白い本との出合いを待ち望んでいる」という前提で行動してみましょう。それがうまくいくかどうかにかかわらず、その行動は親子にとって有益なものになるでしょう。

PROFILE

教育心理学・認知科学者。北里大学一般教育部准教授

猪原 敬介

京都大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。専門は教育心理学・認知科学。研究・教育の傍ら、エビデンスに基づいて子育て・教育・自分時間を考えたい人のために、読書・ことば・学びの研究知見をわかりやすく発信する活動も行う
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教育心理学・認知科学者。北里大学一般教育部准教授

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