障がいを持つ子どもを育てる人のためのライフデザイン――子どもの自立のために「親子との距離」をとる

発達障がいの子を社会人になるまで育ててきた著者が試行錯誤してわかった、自分も子どもも優先する こう考えればよかったんだ!を全部。

発達/発育

作業療法士
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息子に障がいがあるとわかったとき、私は少しでも長く生きて、自分の命が尽きてしまう直前まで息子を守りたいと思いました。

息子には私が必要で、私がいないと生きていけない。

だから全力で尽くすべきだと。

そんな気持ちを察してか、幼少期の息子は完全にお父さん子でした。

その頃の私は、子どもの気持ちをいち早く察するように気を配っていました。

それが心地よかったのか、出かけるときは「お父さんと一緒がいい」と言い出すようにもなりました。

いつしか、子どもの行動の中に「お父さんがいないとダメだ」という気持ちが見え隠れするようになり、そう思われていることを内心喜んでいました。

しかし、相思相愛に見えるこの関係は、後に子どもの自立を妨げるようになり、私も自分を見失う発端となりました。

その頃の私たちは「共依存」に陥っていたのです。

共依存とは、「依存症者に必要とされることに存在価値を見出し、ともに依存を維持している人間関係」です。

自身の存在をお互いに依存しあっているので、傷つけあう、自尊心が低下してしまうなどの弊害があります。

親子に置き換えると、親は子どもに必要とされることに対して自分の存在価値を依存し、子どもは自分の存在を親が認めてくれることに価値を見出し、親の承認がないと不安になるという関係性が挙げられます。

子どもが「自分のことは自分でしなければいけない」という気持ちになるには、自立への意欲が必要です。

しかし、親に依存することで安心感を得ている状態が続くと、その意欲は育ちません。

一方で、親が「子どもに必要とされることに、自分の存在価値を強く感じている」状態は、「親という役割に依存している」とも言えます。

親という役割が外れた、個としての自身に価値を覚えなくなり、個人的な生きがいが失われやすくなります。

また、子どもを通じてでしか自身の価値が感じられないので、子どもの行動に過干渉になり、支配的な関わりになりやすくなります。

親が子離れできないことも、子どもの自立を妨げるのです。

家族だからといって、お互い無条件に口出ししたり依存したりしてしまうと、いつしかお互いがカセとなり、自立した個人としての自由やアイデンティティは簡単に失われます。

知らない間にお互いを傷つけあい、家族としての関係が維持できなくなるのです。

これは障がいの有無に関係ありません。

家族としての関係性を維持するためには、家族それぞれが自立できる距離を互いに保つ必要があります。

親であっても子どものことすべてに介入してはいけないし、子どもは親に依存せず、自分のことは自分でするように努力しなければいけません。

子どもの自立が約束されていない障がい児の親子にとって、そのような関係性を保つことは容易ではありません。

だからこそ、共依存に陥らないように、親子の距離感について強く意識する必要があるのです。

子どもといい関係を築くには、子どものことを、意思を持った個人として尊重し、自分も親ではない「個人としての意思」を持たなければならない。

そう私は考え、息子との距離の取り方を意識するようになりました。

それ以来、息子を「これから自立していく人」として扱い、日常的に距離を保つようにしたのです。

ただ、現実には子どもは障がいのために、自分の力だけではできないことがあります。

そういったことを考慮すると、「精神的に自立すること」と「能力的に自立すること」は分けて考える必要があります。

自分ではできないことでも、なんとかまわりの助けを借りて、自分の生活を続けていこうという意志があれば、それは精神的な自立になります。

私は息子の精神的自立を促すために、将来のことを本人と話し合いながら、生活の中で必要とする支援の内容を、なるべく本人に判断してもらうようにしました。

自己判断の機会が、精神的な自立には必要だからです。

とはいえ、親が急に距離を置いてしまうと子どもは不安になります。

息子には「大きくなったら、自分のことは自分でできるようになったほうがいい」と声をかけながら、日々の生活ではなるべく口を出さずに見守り、ピンチになったら助けに行くという姿勢を保っています。

そうしながら、私も個人としてやってみたいことにチャレンジすることにします。その結果、失敗談も含めて「こんなことにチャレンジしたよ」ということを息子に伝えるようにしました。

障がいに向き合いながら自立を目指す子どもには、自立や失敗に対する不安が生じるかもしれません。

だからこそ、自立している大人がいろいろなことにチャレンジして失敗し、それも含めて楽しんでいる姿を見せて「自立は楽しい」ということを伝えたい。

そうすれば「自立に対する不安」もある程度は取り除けるのではないかと思いました。

こうしたことに取り組んでいるうちに、息子との距離は少しずつ離れていきました。

家族は、自立した個人の集まりでありたいという気持ちは、今日まで持ち続けています。

そうして現在の私たち親子は、日々の大半を別々の場所で、それぞれの時間を過ごす生活を送っています。

「共依存」にならないために親子の距離をコントロールすることは、人間関係の経験値を多く持つ親にしかできません。

もし、子どもからの依存を感じ、子どもへの口出しが止まらないなら、それは子どもとの距離について考えるタイミングなのかもしれません。

point

親子の間でもお互いに自立できる距離を保つ。

PROFILE

作業療法士

クロカワ ナオキ

医療の分野で20年以上のキャリアを持つ作業療法士。結婚2年目で授かった子どもに広汎性発達遅滞があり、仕事をしながら子育てに取り組む。子どもが10歳になる頃、子育ての時間を確保するために管理職を降りてパートタイム主夫として2年間を過ごす。趣味はアート鑑賞。2023年よりnoteで「障がいを持つ子どもを育てる人のためのライフデザイン」の記事を書きはじめる
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