子どもの自信につながる料理体験

育児書を1000冊以上読んだ児童文学作家が実践した、子どものやる気を育む声掛け方法。

しつけ/育児

小説家、児童文学作家
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子どもの自信につながる料理体験

誕生日のスペシャルケーキ

「おたんじょうびに、じぶんで、けーき、つくりたい!」

誕生日を迎えるにあたって、息子はそんなことを言い出しました。

先日、ひとりで料理を完成させたことにより、自信を得たらしく、もっと挑戦したくなったようです。

手作りケーキ?

思わず、私はひるみます。

お菓子のなかでも、ケーキ作りはかなり上級者向けではないでしょうか。

私は大人になってからようやく「クッキーを焼いてみた」というレベルのお菓子作り初心者なのです。

ほかに作ったことのあるお菓子といえば、ゼラチンを溶かしてジュースを冷やし固めただけの手作りゼリーや、湯せんで溶かしたあとふたたび冷やし固めただけの手作りチョコレートくらい......。

ふわふわのスポンジを焼いて、生クリームでデコレーションするなんて、成功できる気がしません。

しかも、息子はケーキを「自分で作りたい」と言うのです。

ただでさえ自信のないケーキ作りなのに、息子に教えながら、もたもたと作業していれば、ろくな仕上がりにならない可能性が大で......。

そんな不安を感じながらも、わくわくと目を輝かせている息子に「ダメ」と言うことなどできるわけありません。

誕生日は一年に一度の特別な日です。

本人の希望を叶えてあげるのが、なによりのプレゼントでしょう。

「わかった。いいよ。ケーキを作ろう!」

はじめてでも作れるケーキ

家族3人暮らしでは、バースデーケーキをホールで注文しても、食べきれません。

これまでの誕生日には、カットされたケーキを3つ、買っていました。

息子のケーキにはロウソクを立てたりはしていたものの、やはり、誕生日ならではの特別感はなかったのかもしれません。

「どんなケーキを作りたいの?」

私の質問に、息子は張り切って答えます。

「おおきくて、まるごとで、くりーむがかかっていて、とっぴんぐのある、すぺしゃるなけーきをつくるの!」

息子の頭のなかには、どんなに素敵なケーキが思い浮かんでいるのか......。

夢見るようなまなざしで理想のバースデーケーキについて語る息子を前にして、こちらは頭を抱えます。

いや、きみが想像しているようなケーキを作るのは、とっても難しいんだよ。

息子が期待に胸をふくらませていればいるほど、ケーキが失敗したときに受けるダメージは大きいでしょう。

ぺしゃんこにつぶれたスポンジを見て、しょんぼりしている息子......。

そのすがたを想像するだけで、いたたまれない気持ちになります。

うちには小麦粉をふるう器具もなければ、円形のケーキ型もありません。ハンドミキサーも、計量器も、ケーキクーラーもなくて......。

まずは道具をそろえるところからはじめなければならず、息子と作る前に予行練習としてひとりでスポンジを焼く特訓をしておいたほうがいいかもしれないとか考えると、手作りケーキへの道は果てしなく遠くて......。

そのとき、ふと、思いついたものがありました。

いつか、絵本で見たホットケーキ。

子どものころ、私は「ちびくろさんぼ」という絵本に出てくるホットケーキが積み重なった絵のページが大好きで、よく眺めていたのです。

大きくて、まるくて、特別なケーキというものは、なにもスポンジを焼かなくても、フライパンを使って作れるかもしれません。

ホットケーキなら失敗することもないでしょう。

それを何枚も重ねていけば、特別感のあるケーキになりそうです。

それから、もうひとつ、素晴らしいものの存在を知りました。

スプレー缶入りのホイップクリームです。

これは日本ではあまり普及していないようですが、欧米ではわりとポピュラーなものらしく、輸入食品を扱っているお店で売られていました。

細長いスプレー缶に乳脂肪分たっぷりの液体が入っていて、ボタンを押すだけで、ふんわりしたホイップクリームとなって、ノズルから出てくるのです。

そして、息子の誕生日。

いっしょに買い物に行って、ケーキの材料を買いそろえます。

「トッピングはなにがいい?」

「くりーむとばなな!」

せっかくの誕生日なので、ここは奮発して、いつものバナナではなく、高級なバナナを買ってみました。

家に帰ってから、私はひたすら、ホットケーキを焼きます。

息子は自分の包丁を使って、バナナを好きなかたちに切っていきます。

熟してから収穫したというバナナは、皮に黒い斑点が浮いて、濃厚な甘い香りが漂っていました。

ホットケーキを1枚、皿に置くと、息子は輪切りにしたバナナを並べます。

そこに、もう1枚、粗熱が取れたホットケーキを重ねて、またバナナを並べます。

そして、最後に、もう1枚。

一番上のホットケーキは、クリームで飾りつけます。

スプレー缶入りのホイップクリームを渡して、使い方を説明すると、息子はさっそく自分でやってみました。

しゃかしゃかと缶を振って、ボタンを押せば、ぶしゅーっと勢いよくホイップクリームが出てきて、大喜びです。

「おもしろーい!」

きちんと泡立てた生クリームとはちがって、スプレー缶から出たホイップクリームはあまり長持ちはしませんが、すぐに食べるのなら問題ありません。

息子は夢中になって、ホイップクリームでケーキをデコレーションしていました。

「すごーい! すぺしゃるなけーきだ!」

できあがったケーキを前に、息子は満足げな顔です。

私はそのすがたを、ぱしゃりと写真に撮りました。

世界にひとつだけのバースデーケーキ。

息子が夢見ていたケーキにどれだけ近づけたかはわからないけれど、楽しい誕生日の思い出になっていたらいいな......と願うのでした。

『子どもをキッチンに入れよう! 子どもの好奇心を高める言葉のレシピ』藤野 恵美 (著)・ポプラ社刊(p116~p122)より抜粋

PROFILE

小説家、児童文学作家

藤野恵美

1978年、大阪府堺市生まれ。2003年『ねこまた妖怪伝』で第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞し、デビュー。
現在、大阪芸術大学特任准教授。

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