非認知能力をはぐくむ絵本「きんぎょがにげた」“自信をはぐくむ”
忍耐力、思いやりなど人生を豊かにしてくれる「非認知能力」。テストでは測れない非認知能力を伸ばすために有効なのが絵本です。非認知能力を育むのに適する絵本と、親子で絵本を楽しみ非認知能力を育てる方法を紹介します。
絵本
きんぎょがにげた
きんぎょがにげた、どこににげた?
幼児をとりこにする傑作には、秘密があります。
対象年齢:1歳ごろ〜
強烈な目玉の引力ときんぎょを射抜く快感
目玉の絵柄は、乳幼児の注目を引きつける力が強いと言われます。
物心ついた頃に読んでいたいろいろな絵本を思い浮かべると、たしかにそうだと感じます。
くりっとした目がこちらを向いていたら、視線は瞬時に奪われますし、目の持ち主にはかなりの親しみを覚えていました。
そんな中でも『きんぎょがにげた』には段違いのパワーがあります。
きんぎょの目玉とピンク色に吸い寄せられ、そこしか見ていなかった絵本は、他にちょっと見当たりません。
筆者の場合、好きな絵本はどれも、画面のどこに何が描かれているかを今も覚えています。
でも、本作はそれがほとんどわかりません。
三日にあげず開いた一冊だったからこそ、余計に驚きます。
目玉を持つピンクのきんぎょの吸引力は、小さな子にとって、それだけ抗いがたいものがあるのです。
さて、きんぎょがふわふわと逃げ回る時には、文章を読む大人の声が「どこににげた」と問いかけてくるわけです。
聞かれれば答えたくなって、子どもは「ここ!」と指差します。強烈な魅力の一匹を、射抜くように言い当てるこの瞬間は、何にも代えがたい快感です。
リズムを補完することも自信をバックアップする
恍惚とさえ言える指差しの一瞬が、こどもの自信を形づくります。
絵本に没頭していればいるほど、この自信は大きくなることでしょう。
さらにこの時、「できた」をもたらす別の要素がもう一つあります。物語を完成させる感覚です。
本作の文を追ってみると、「きんぎょがにげた」「どこににげた」「おやまたにげた」「こんどはどこ」と進みます。
問いはあれど、答えがありません。
先ほどの指差しを子がはさむことで「きんぎょがにげた」「どこににげた」(ここ!)「おやまたにげた」「こんどはどこ」(ここ!)と変化します。
不完全なリズムを自分が整えた快感を、子どもは無意識に味わい、それもまた自信になります。
きんぎょ鉢の中には、きんぎょが一匹。泳いでいたと思ったら、ふわりと宙に浮いて逃げ出しました。いろいろなところに隠れながら、ピンクのあの子は漂い続けます。小さい子どもも夢中になって指をさす、かくれんぼの絵本です。
きんぎょがにげた
五味太郎/作
福音館書店
絵本研究家/ワークショッププランナー、元・東京学芸大学個人研究員。
著者に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。
雑誌・Web「FQKids」で「寺島知春の非認知能力を育む絵本」を連載中。
プロフィール写真/渡邊晃子
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