非認知能力をはぐくむ絵本「あさになったので まどをあけますよ」“敬意をはぐくむ”
忍耐力、思いやりなど人生を豊かにしてくれる「非認知能力」。テストでは測れない非認知能力を伸ばすために有効なのが絵本です。非認知能力を育むのに適する絵本と、親子で絵本を楽しみ非認知能力を育てる方法を紹介します。
絵本
非認知能力をはぐくむ絵本「あさになったのでまどをあけますよ」敬意をはぐくむ
あさになったのでまどをあけますよ
朝だから窓を開けて、いつもの風景を見る。
ただそれだけのくり返しが、愛おしいのです。
対象年齢:5・6歳ごろ〜
他者の眼差しを自分の中に取り入れる
自分の毎日を一生懸命に過ごしていると、私たちはつい、一人称の視点しか存在しないような錯覚に陥るものです。
でも当たり前ですが、私という人間が毎日を生きているのと一緒で、どんな人もその人の毎日を生きています。
本作には、いろいろな場所の子どもたちが描かれています。
彼らは一日の初めに「あさになったのでまどをあけますよ」と言いながら日の光を取り入れ、誰もが自分の住むその場所を「ここがすき」と思います。
窓の外に見えるのがにぎやかな街でも、田園風景でも、そこにその子の暮らしがあり、朝が来るたびに毎日窓を開けて、目の前の場所への愛着を確認するくり返しは、変わらないのです。
何が起こるわけでもない物語です。読んでいる子どもは、淡々と窓を開いているなあと思いながら、そのリズムの中で、がらりと違う所々の風景を静かに眺めることになります。
でも、その時には、窓を開けた子の存在をごく身近に感じてもいるのです。「この子には、これが大切な風景なんだなあ」と実感することが、他者の視点を自分に取り入れるきっかけになります。
敬意の基礎は、誰をもないがしろにしないこと
人は誰しも小さくて、似通った存在です。
世界中いたるところで、自分と同じ営みをする人が無数にいる。
そう知っていれば、他者をないがしろにする気は起こりようもないと感じます。
それは、敬意に通じる思いではないでしょうか。
余談ですが筆者は、コロナ禍以前は外国の街を一人で歩くのが好きでした。
市場で食料を買い、土地の時間にたゆたってしばらく滞在していると、旅行者ながらにそこでの毎日が生活になる瞬間があります。
場所は変われど、自分は食べて寝て排泄するだけの存在だと気づくと、どこにいる人も大層な違いはないと思えました。
別の視点から、この絵本と同じものを見たのでしょう。
いろいろな場所に住む、何人もの子どもたちが、それぞれの家の窓を開けていきます。「あさになったのでまどをあけますよ」と言いながら。何気ない一日の始まりに、今日も昨日と同じことをくり返す風景が、気持ちの奥に語りかけてくる一冊です。
あさになったのでまどをあけますよ
荒井良二/作・絵
偕成社
絵本研究家/ワークショッププランナー、元・東京学芸大学個人研究員。
著者に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。
雑誌・Web「FQKids」で「寺島知春の非認知能力を育む絵本」を連載中。
プロフィール写真/渡邊晃子
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