非認知能力をはぐくむ絵本「けんかのきもち」“自己抑制をはぐくむ”
忍耐力、思いやりなど人生を豊かにしてくれる「非認知能力」。テストでは測れない非認知能力を伸ばすために有効なのが絵本です。非認知能力を育むのに適する絵本と、親子で絵本を楽しみ非認知能力を育てる方法を紹介します。
絵本
非認知能力をはぐくむ絵本「けんかのきもち」自己抑制をはぐくむ
けんかのきもち
けんかして、悔しがって、思いっきり泣く―。
主人公の気持ちは、おおらかに動きます。
対象年齢:4・5歳ごろ〜
さまざまな感情の体験が自己抑制の土台になる
怒る、泣きたくなる、いじわるになる、いじける―。
これらのマイナスの感情を含めて、人間の内側にはさまざまな気持ちの動きがあります。そういうものが自分の中に存在するということを子ども自身が承知しているのは大切です。
自己抑制を身につけるには、前段階としてこれをのみこんでいる必要があります。
『けんかのきもち』では、主人公・たいの様子を通して、心模様の繊細な移り変わりがおおらかに描かれています。
たいと同じ年頃の子どもたちがこれを読めば、彼の身に起こったことを「自分ごと」に近い感覚で捉える子が多いでしょう。
たいの心境の変化に重ねて、自分の中が暴れる感覚をじっくり味わうことは、言葉では言い表せない複雑な感情の動きを疑似体験してのみこんでいくことにつながります。
どうにもコントロールできない、激しい気持ちの動きは、抑えつけて見えなくすればいいというものではありません。
必要だから出てくるし、それを認めることが感情の手綱を自分で引く手がかりになります。
こうした道のりが、自己抑制の土台を少しずつ築いていきます。
生身の体で感じ、獲得すること。絵本はそこに力添えする
絵本で得られるのは疑似体験です。
一方、いろいろな感情の経験を子ども自身が実体験として持っていることは、絵本での疑似体験に輪をかけて肝心です。
後者は、子どもが集団内で生活していれば、自然と獲得していけるでしょう。
ところで、いざ子どもが他の子との人間関係で大きく感情を揺れ動かされた時に、絵本での疑似体験がまったく無駄かといえば、決してそうではありません。
自分の内に湧き上がる慣れない大波を、怖いと思わず見つめるのに、きっと役立つはずです。
感情のコントロールは大人でも難しい時がありますが、何度も直面しては向き合う中で、次第に習得していくことができるのです。
たくさんの子どもが毎日通う「あそび島」。その施設で主人公のたいは、ある日親友のこうたと取っ組み合いのけんかをします。負けたたいの心中は、なかなか収まりません。みんなに声をかけられても、泣きたい気持ちは収まりません。
けんかのきもち
柴田愛子/文、伊藤秀男/絵
ポプラ社
絵本研究家/ワークショッププランナー、元・東京学芸大学個人研究員。
著者に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。
雑誌・Web「FQKids」で「寺島知春の非認知能力を育む絵本」を連載中。
プロフィール写真/渡邊晃子
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