子供の早起きは一生の損失?「年齢ごとに推奨される睡眠」
子供の成長と可能性を守るために!思春期の睡眠をめぐる科学的知見と、全米でおこなわれてきた実証研究、教育現場の実例をもとに、なぜ10代は眠れなくなったのかを明らかにした初の書。睡眠不足が心身の健康、学業成績、リスク行動、感情の安定にどのような影響を及ぼすのかを丁寧に解説、性別や社会経済的状況など、睡眠格差の問題、家庭で実践できる具体的な改善策も紹介。カリフォルニア州で始業時刻規制法が成立するまでの舞台裏から学校の始業時刻を見直すためのヒントまで。
健康/病気
朝起きられないのは怠慢ではなく、子どもの脳と体が発するSOSだった!本書は、睡眠不足が心身の健康、学業成績、リスク行動、感情の安定にどのような影響を及ぼすのかを丁寧に解説、家庭で実践できる具体的な改善策も紹介。
リサ・L・ルイス著、永盛鷹司訳『子ども睡眠不足社会 親と学校に何ができるのか』から一部転載・編集してお届けいたします。
年齢ごとに推奨される睡眠
2015年、全米睡眠財団はその前の10年間に発表された300以上の研究を総括し、年齢層ごとに推奨される睡眠の新しいガイドラインを公表した。
多くのケースにおいて、新バージョンでは推奨される時間の幅が広がった。
たとえば10代に推奨される時間は旧バージョンでは8時間30分〜9時間30分だったのに対し、新バージョンでは8時間〜10時間とされている(とはいえ、8時間は推奨される最低量だと強調しておく。8時間で足りる子もいるかもしれないが、10時間近く必要な子もいる)。
あいにく、理想と現実の間には大きな隔たりがある。
2018年にCDCが発表した報告書によると、高校生の43%が毎晩平均6時間以下しか眠っていないのだ!
脳の発達について概説
赤ちゃんは、最終的に必要になる量よりも多くの神経細胞を持って生まれてくる。
そのため、赤ちゃんは視覚、聴覚などの身の回りの刺激をすべて吸収できると、神経科学者のフランシス・ジェンセンは『10代の脳』に書いている。
たとえば、乳児の脳は多くの異なる言語の音を幅広く聞き分けられると、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の発達神経科学研究所所長を務めるアドリアナ・ガルヴァンは私に教えてくれた。
だがこの能力は、10代が自分のまわりで使われているひとつ、または複数の言語を学ぶにしたがって削ぎ落とされていく。
「世界の全言語に順応できる能力を脳が保持し続ける意味はありません。私たちがそれぞれ使う言語に特化することを妨げてしまうからです」
学びの過程で、ニューロンをつなぐシナプスは増え、強くなる。
「幼児期の最初の数年間は、脳の可塑性が極めて高く、何でも容易に素早く学ぶことができる」とジェンセンは書いている。
ところが、脳の発達におけるもうひとつの重要な時期が、思春期に訪れる。
この時期は脳の構造から余分なものを取り除き、改築することが中心だ。
最も使われているニューロンはシナプスという最も強い接続になる一方、使われてなくなった初期に作られたあまりは取り除かれる。
不要な神経を除くことで、残ったニューロンをもっと効率的に働かせられるようになる(「使わなければだめになる」という言い回しは、10代の脳細胞に関しては真実なのだ!)。
この余剰を削ぎ落とす作業は、睡眠の第3段階(深い眠り)におこなわれる。
こうして剪定がおこなわれている間も、髄鞘形成(脳の白い物質ミエリンに関連する用語だ)というプロセスを通じて、10代の脳内のニューロンの接続は拡大している。
脂肪質の物質であるミエリンは、神経の接合部を覆い、伝達物質がより速く移動できるようにする。
ガルヴァンはこれを、未舗装の道から舗装された高速道路へのアップグレードになぞらえている。
また、ガルヴァンによると、脳の各部位をまたいだつながりの強化も思春期に起こるという。
この能力強化によって、10代の脳の情報処理の速度が決まる。
睡眠の質が低いと、接続プロセスの成熟が遅くなるおそれがあるのだ。
睡眠の質
睡眠の長さもさることながら、いかによく眠れているかも同様に重要だ。
「睡眠の質は量に勝るとは言わないまでも、同じくらい重要だとわかっています。
途中で起こされたり、眠りの質が低かったりすると、回復のメリットが得られません」とガルヴァンは述べる。
「9時間布団のなかにいても、いわゆるマイクロ覚醒で気づかないうちに目覚めてしまうと、睡眠が妨げられ、朝起きたときに休息が足りないと感じることになります」
もちろん、夜中に天井を見つめているときのような自覚的な覚醒によっても、睡眠時間は短くなるし、睡眠の質も悪くなったと感じられる。
ニュージーランドと米国の1000人以上の10代後半を対象にした最近の研究では、メンタルヘルスと幸福度の予測では、食事や運動、さらには睡眠の量よりも、睡眠の質が重要だとわかった(睡眠の質は、目覚めたときにどれだけ爽快感を感じているかを被験者に格付けしてもらうことで評価された)。
4000人以上の大学生を対象にした2020年の研究でも同様の結果が見られた。
少なくとも週に4日以上「よく休まる睡眠」が取れた人は、抑うつの症状を訴える確率が低かった(さらに、成績がよかった)。
10代の眠りのタイミング
なぜ10代が十分な睡眠を取れないのか、その原因は彼らの体内時計にある。
カースケイドンが発見したように、身体に睡眠の準備をさせるホルモン、メラトニンは第二次性徴期には夜遅くに分泌されるようになり、朝の遅い時間までなくならない。
それにしたがって、10代の睡眠は変化する。
夜遅くにメラトニンが効き始めるまで、彼らは眠気を感じない。
そしてメラトニンが(それまでよりも朝の遅い時間帯に)引くまで、布団から出ることが難しくなるのだ。
「生徒たちは学校に来ているかもしれないが、脳は家の枕の上に置いてきている」とカースケイドンは書いている。
年がら年中眠たい中高生は早く寝たがると思うかもしれないが、実はそうではない。
一般的には、人は長く起きているほど眠くなる。
これは睡眠圧と呼ばれる。
10代はもっと幼いときよりも睡眠圧が形成されるのに時間がかかる。
しかし、体内時計の都合で(何時間も起きていた後なのに)より頭がすっきりするタイミングも1日のなかにはある。
身体にプログラムされたこのタイミングによって、私たちは目覚め、日中に頭がすっきりする。
さらには夕方から夜、最終的に眠くなって床につくまでの数時間に力を出すため、2回目のブーストをかけられるようになっている。
10代になると、このプロセス全体が遅い時間にずれる。
朝の遅い時間までメラトニンの量が減らないだけでなく、覚醒の第二波も晩のもっと遅い時間にやってくるのだ。
親は夜に向けてくつろいでいるだろうが、デメントが言うところの「厄介な覚醒の乱入」によって、中高生は夜の11時頃までそのような気にならないのだ。
第二次性徴に関する重要事項
第二次性徴は、すべての10代に同じスケジュールで起こるわけではない。
女の子は8歳から13歳のどこかの比較的早い時期に第二次性徴期が始まるが、男の子は約1年遅れだ。
その違いは誰の目にも明らかな形で出る。
6年生にもなると、男の子はまだ見た目が10代なのに対し、女の子の一部は男の子の身長を抜き、大人っぽい体つきになる。
これによって学校のフォークダンスの男女ペアがいびつになるだけではない。
女の子の睡眠にも重要な影響が出る。
6年生を対象にした研究でカースケイドンは、すでに第二次性徴の真っ只中にいる10代が全体的にほかの同学年の子よりも遅く就寝することを発見した(大多数は女の子だが、ごく少数の、第二次性徴が始まっていないと見られる男の子もいた)。
その後の研究で、カースケイドンは第二次性徴とメラトニン分泌の時間の遅れに関連性があることを発見した。
つまり、身体の発達が進んでいる10代は、すでにメラトニンが遅くに分泌されるようになっている(より後ろ倒しの睡眠パターンになっている)のだ。
女の子、男の子ともに今では、第二次性徴、つまり夜遅くまで起きて朝遅くまで眠るようになる時期が早まっている。
だが、学校の始業時刻はより早くなっている。
若者の目覚ましが鳴る朝に起こること
まず、推奨される量の睡眠を取れるよりもずっと前に起こされる場合は特に、彼らはふらふらの状態だろう。
すでに述べたように、10代には8~10時間の睡眠が必要だ。
突然起こされるとレム睡眠の妨げにもなる。
レム睡眠の出現は眠っているときの後半により多くなっていくのだ。
つまり、想像力を養い、情報を統合し、感情を制御することにもつながる睡眠の段階をあまり経験できなくなる(全国青少年危険行動調査の研究者の分析によると、10代の睡眠が減ると、アルコールの摂取、武器の所持、さらには自殺の計画や実行に至るまで、危険な行動に手を出す確率が上がるという)。
なぜ学校の始業時刻が重要なのか
思春期の10代たちが夜遅い時刻まで眠りにつけないことに鑑みると、推奨される8~10時間の睡眠時間を確保するにはより遅い時刻に起きなければならない。
だが、朝早くに登校しなければならないとなると、それは不可能だ。
学校の始業時刻が早すぎると、10代の睡眠はどうなるだろうか。
夜11時まで眠りにつけないとなると、8時間眠るための起床時間は翌朝7時以降でなければならない。
これは推奨される8~10時間の最低ラインであるし、彼らが布団に入ってすぐに眠れる場合に限った話だ。
体内時計と違って、学校の始業時刻は10代たちがもっと眠れるように変更可能だ。
この後の章で見ていくように、米国小児科学会が中学・高校の始業時刻を8時30分以降にしたほうがよいという画期的な提言をした2014年以来、実際に導入しようという機運は(始業時刻を遅くすればそれに応じて10代の睡眠も改善すると示す研究の増加とともに)高まり続けている。
日の光について
特に冬の時期、10代たちが起きる時刻はまだ暗く、学校につく頃もまだ暗い。
脳に覚醒する時間だと告げる日光がないなか、生徒たちは無理やり布団から出て、1日の最初の授業で苦労して起きていなければならない(暗いなか出勤し、エネルギッシュで生産的な気持ちでいられるか、大人も考えてみてほしい)。
より緯度が高い北部の都市では、この現象はさらに顕著だ。
12月のミネアポリスでは、朝7時30分を過ぎるまで太陽は昇らない(それより前に空はだんだんと明るくなってはいるけれども)。
本章のまとめ
・私たちは毎晩、睡眠の4つの段階を周回する。それぞれの段階には固有の役割がある。
・10代は脳の発達にとってきわめて重要な時期である。
・10代は毎晩最低8~10時間の睡眠を必要とする。
・第二次性徴によって、睡眠のタイミングは10代のときに変化する。
・睡眠の質と量、どちらも大事である。
・早すぎる学校の始業時刻は、10代の睡眠を損なう大きな要因である。
育児ジャーナリスト。
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