児童精神科医が伝える「家でお母さんが厳しすぎると…」

没後も愛され続ける児童精神科医・佐々木正美があたたかなまなざしでつづる、 子どもの心とからだの発達のために本当に大切にしたいこと。

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「家ではいい子なのに保育園で手のかかる子」は、家でお母さんが厳しすぎるのかもしれません

長年つづけている保育士さんとの勉強会でも、「親の前でとてもいい子」ほど、保育園ではいわゆる「手がかかる子」というケースがとても増えているといいます。

親の前でいい子というのは、とても親に気をつかい、本音を言っていないんです。

親にほめられたい、叱られたくない、親に喜んでもらいたい、という気持ちはとても強く持っているんです。

ところが、「悪いこと」「よくないこと」をしたら、親に叱られる、見捨てられる、といった感情も持っています。

「どんないたずらをしたって、叱られたって、親に嫌われるはずはない」という確信がないのでしょう。

親のほうも、「あれをしてはだめよ」「これをしてはだめよ」という規制が多く、それにしたがったときにだけほめている、ということが多いのだろうと思います。

単に子どもを喜ばせるために、子どもの希望をきいてやる、ほしいものを与える、ということが少ない。

こうしたお母さんは、いっしょうけんめい子どものことを考えているつもりなのだけれど、やっぱりお母さん自身のためにやっている、ということが多いのです。

そうした環境にある子どもは、保育園で「手のかかる子」になることが多いのです。

家でできることが保育園ではできず、保育士をつねに自分に引きつけようとする。

つまり赤ちゃん返りをしてしまうのですね。

しかも赤ちゃん返りと同時に、攻撃性が強くなることが多いのです。

たとえばけんかをして友達を突き飛ばすとか、叩く、おもちゃを投げつけるというようなことが多くなる。

お母さんは、まったく想像もしていないんですね。

自分の子どもが保育園で乱暴なことをするなんて、信じられないわけです。

それほど家ではいい子なのです。

「そんなはずはない」というお母さんに、少しずつお話をしてわかってもらうようにはするのですが、教え方はとても難しいです。

へたな教え方をすると、お母さんは家で、いままで以上に「怖いお母さん」になってしまうんですね。

それに、最近は保育士さんがお母さんに「園にいるときに乱暴なことをすることがある」「家で厳しすぎるのではないですか」といったことを言っても、お母さんがまったく聞く耳を持ってくれないことが増えてきています。

「そんなはずはありません」と突っぱねられてしまうんですね。

乱暴なことをするのは、相手の友達が悪いせいだと考えたり、保育士さんがちゃんと見てくれないからだ、と言いつのるケースも多いのです。

「厳しすぎませんか」とアドバイスをしても、子どものためにしていることだ、と言うばかりなのです。実際そう信じているから、どうにもならないのです。

『子育てのきほん』佐々木 正美 (著)・ポプラ社刊(p161~p164)より抜粋

PROFILE

児童精神科医

佐々木正美

1935年、群馬県生まれ。2017年没。
新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、小児療育相談センターなどを経て、川崎医療福祉大学特任教授。
臨床医としての活動のみならず、地域の親子との学び合いにも力を注いだ。
専門は児童青年精神医学、ライフサイクル精神保健、自閉症治療教育プログラム「TEACCH」研究。糸賀一雄記念賞、保健文化賞、朝日社会福祉賞、エリック・ショプラー生涯業績賞などを受賞。

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