児童精神科医が伝える「上の子」に「一人っ子」の気分を
没後も愛され続ける児童精神科医・佐々木正美があたたかなまなざしでつづる、 子どもの心とからだの発達のために本当に大切にしたいこと。
しつけ/育児
「上の子」にもときには「一人っ子」の気分を味わわせてあげてください
きょうだいげんかも、我が家では「誰かが泣いたらおしまい」というルールをつくっていただけでした。
きょうだいげんかはスポーツのようなものですから、ルールを決めてゲームセットにしてしまえばいい。
「終了」の笛をふくのだけ、親が担当すればいいと思います。
どちらが悪いとか、お兄ちゃんは我慢しなさい、というようなことを言う必要はありません。
家内は「はい、お疲れ様。おやつにしましょう」と、よくやっていましたよ。
きょうだいが生まれると、お母さんはどうしても「お兄ちゃんだからしっかりしなさい」「お姉ちゃんだから我慢しなさい」という言葉が増えがちです。
けんかをしても「弟はまだ小さいのだからやさしくしなさい」「お姉ちゃんが我慢してあげなさい」ということになりがちです。
けれども、こうしたことはあまり言わないであげてほしい。
弟や妹ができると、上の子はだいたい「赤ちゃん返り」をして、これまでできていたことができなくなったり、今まで以上に親に甘えてわがままを言うようになります。
自分に振り向いてくれなくなった、と思ってしまうからです。
そうではない子ども、つまり「しっかりしたように見える子ども」は、うんと我慢をしているのです。
どちらにしても、「上の子」はお母さんに嫌われまい、もっと自分を見てほしい、と思っています。
できるだけ、「しっかりしなさい」「我慢しなさい」という言葉を使わないであげてください。
昼間はどうしても下の子に時間をとられるのは仕方がありませんが、下の子が寝たあとにふたりだけで、おやつを食べながらしばらく話を聞いてあげるとか、ときどき上の子だけを連れてどこかへ遊びに行く、といったことで「一人っ子」の気持ちを味わわせてあげるといいと思います。
これはきょうだいがたくさんいても同じことです。
それぞれの子どもたちひとりずつに、少しの時間でいいですから、「お母さんとふたりだけ」という時間をつくってあげるといいと思いますよ。
そうした時間があれば、子どもはきょうだいがたくさんいても「ひとりひとり、全員がそれぞれ大切にされているのだ」ということを理解するでしょう。
じゅうぶんに愛されていることがわかれば、弟がわがままを言っても「聞き分けがないのは小さいのだからしょうがないな」という気持ちが、小さいなりに育っていくものです。
もちろん、それできょうだいげんかがまったくなくなるはずもありませんけれど、上の子が極端に怒りっぽくなったり、扱いにくくなるようなことはないと思います。
よくある「偏食」も、別にむりやりなおす必要もないと思います。
ほどほどにバランスがとれていれば、好きなものを食べさせてあげればいい。
私の子どものひとりは、中学まで偏食がなおりませんでしたが、先生に手紙を書いて頼んだことがあります。
「うちの子は偏食ですが、これは親の責任です。これで栄養不足になっても私たちの責任ですから、給食を残しても許してやってください」と。
先生は「○○くんは、ちゃんと成長して学校に来ているのですから、少しも心配していません」と返事をくれました。
とても立派な先生だと思います。
実際息子はだんだん成長するにつれて、偏食も自然になおっていきました。
きょうだいげんかと偏食の例をあげましたが、「よかれ」と思って、なおそう、正しい方向に導こうと、あれこれ毎日叱るよりも、放っておけばだいじょうぶ、「そのままでも別にだいじょうぶだよ」と受け止めてあげることのほうがずっと大切だし、結果的にいい方向にすすむということが多いものです。
『子育てのきほん』佐々木 正美 (著)・ポプラ社刊(p75~p80)より抜粋
児童精神科医
新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、小児療育相談センターなどを経て、川崎医療福祉大学特任教授。
臨床医としての活動のみならず、地域の親子との学び合いにも力を注いだ。
専門は児童青年精神医学、ライフサイクル精神保健、自閉症治療教育プログラム「TEACCH」研究。糸賀一雄記念賞、保健文化賞、朝日社会福祉賞、エリック・ショプラー生涯業績賞などを受賞。
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