児童精神科医が伝える「お父さんは、お母さんの母性を発揮するためのサポート役」
没後も愛され続ける児童精神科医・佐々木正美があたたかなまなざしでつづる、 子どもの心とからだの発達のために本当に大切にしたいこと。
しつけ/育児
お父さんは、お母さんが思う存分母性を発揮するためのサポート役です
両親がそろっている場合であれば、その分担ははっきりしやすいと思います。
「お母さんはやさしい」「お父さんはちょっと怖い」でいいし、それが一番自然です。
ですがいまは、お母さんもお父さんも、どちらもが父性的になりすぎているように思います。
父親の育児参加が進んだといっても、やはり育児はお母さんまかせになることが多いせいでしょう。
お母さん自身が父親的な役割を果たすこともときには必要ですが、どうしても現代のお母さんは父性原理を働かせることが多すぎるのではないかと思うのです。
厳しくて、怖いときが多いのですね。
また、それを補うように、お父さんがやさしくしようとしている、ということが多いと思います。もちろんお父さんが時に母性的な部分を担当する、というのはとてもいいことなのですが、どちらかというと育児に関わる時間が長いお母さんが常に父性的で、たまにお父さんが母性的に受容する、というのはあまりいいバランスではないと思います。
いつもお母さんが厳しく怒っていて、たまにお父さんが取りなす、というパターンです。
いちばんいいのは、母親が思う存分に母性を発揮しやすいよう、父親がサポートすることです。
お母さんにもさまざまな個性、性質がありますから、「母性」といってもいつもただ静かにニコニコしているという意味ではありません。
肝っ玉母さん型もいるでしょうし、キャリアウーマンのお母さんもいる。
どんなタイプにせよ、本質的なところで母性を発揮すればいい。
お母さんのタイプにあわせて、お父さんが自分の役割を考えるのがいいと思うのです。
お母さんの気持ちを支えてあげることですね。
お父さんは、お母さんがなるべく気持ちに余裕を持って、子どもにやさしく接することができるようにしてあげてほしい、ということです。
お母さんがいつも幼い子どもを叱ってばかりいるように感じたら、それはよくないサインです。
お母さん自身がそれに気づいたら、お父さんにもう少しサポートを求めるといいでしょうね。
お父さんが気づいたら、お母さんを助けてあげてほしい。
「なにをしなくてはいけない」と、堅苦しく考えることはないのです。
両親の個性や、家庭の環境にあわせて、ちょっと家事を手伝ってあげたり、子どもをしばらく遊ばせてやったり、いろいろなサポートのしかたがあるでしょう。
両親がそろっているのなら、子育ての主役はやっぱりお母さんです。
父親は助演者であり共演者です。
目立たなくてもいいから、母親を支えればいいのです。
半分ずつきっちりわけて、役割分担をしようと思ってもできるものではありませんから。
お風呂に入れてあげる、保育園の送り迎えを手伝うことで、お母さんが楽になるのなら、手伝ってあげればいい。
でもこれは時間的に助けるという意味よりも、お母さんの気持ちを助けるという点で大きなサポートになると思います。
どういう形にするのかは、夫婦で自然に話し合い、お互いに感じ取りながら決めていくのがいいと思いますよ。
お父さんも母性的な部分を持ち、お母さんも父性的な部分を持っているけれど、子どもはやっぱり「お母さんにしてもらうとうれしいこと」「お父さんといっしょのほうが楽しいこと」と、それぞれの喜びを両親に求めます。
お父さんとお母さんは二人三脚だけれど、同じことを均等に分担するということではないのです。
いろいろなご家庭をたくさん見てきたけれど、ほんとうに形はさまざまです。
こうでなければいけない、という「決まり」などありません。
私は、小学校3年から高校を卒業するまで、滋賀県の農村に疎開していましたが、農村での生活、田畑の仕事というのは、父も母もそろって同じように働きます。
夫婦そろって仕事に出かけ、いっしょに帰ってきます。
けれど、家で子どもと接するときには自然に役割が違っていました。
やっぱりあれこれ世話を焼くのは母親で、ごはんをつくるのも母親。
父親は具体的に「なにを分担する」ということはなかったけれど、母親が困っていれば手を貸す、ときどき子どもにちょっと厳しくする、というようなていどの「分担」です。
子どもも外で遊ぶのは父親とのほうが楽しいとか、家でおしゃべりをするのはやっぱり母親がいい、というように、求めることを自然に変えますから、両親はそれぞれ違った形で子どもが喜ぶことをしてやればいい、ということです。
『子育てのきほん』佐々木 正美 (著)・ポプラ社刊(p206~p211)より抜粋
児童精神科医
新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、小児療育相談センターなどを経て、川崎医療福祉大学特任教授。
臨床医としての活動のみならず、地域の親子との学び合いにも力を注いだ。
専門は児童青年精神医学、ライフサイクル精神保健、自閉症治療教育プログラム「TEACCH」研究。糸賀一雄記念賞、保健文化賞、朝日社会福祉賞、エリック・ショプラー生涯業績賞などを受賞。
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