子どもに「勉強しなさい」と言いたくなったときには - 発達心理学の専門家コラム

コラム・弥生先生の心の相談室

しつけ/育児

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士
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発達心理学の専門家コラム 子どもに「勉強しなさい」と言いたくなったときには

子どもに「勉強しなさい」と言いたくなったときには

「勉強しなさい」と言いたくなってしまったら、何のために勉強するのか、立ち止まって考えてみましょう。

偏差値のよい高校に行き、よい大学に入り、よい就職先にたどり着けば、将来なんの心配もなく、幸せに暮らしていけるのではないかとなんとなく考えていないでしょうか。

あるいは、先の見えない不安から、「とにかく勉強してくれたら」と親自身の安心を求めてはいないでしょうか。

そもそも、「偏差値」とは何かご存じでしょうか。

偏差値とは、テストを受けた集団の中で、自分がどの位置にいるかを示した数値。

人と自分を比較した数字です。

そもそも、この数字で子どもの学びの力を決めつけてしまうこと自体に問題があるかもしれません。

それを証拠に、よい大学に入り、大企業に就職した人たちがみな、幸せそうに暮らしているかといえば、そうともいえないのが現実です。

今は価値観が多様化し、幸せの形は人それぞれです。そもそも、親と子は別の人格であり、親自身が幸せと思うことと、子どもが幸せと感じることは違います。

以前、ある大学の教授からこんな話を聞きました。

「うちの大学の学生は、みなそれぞれの高校で1番か2番の成績で、厳しい受験を勝ち抜いてきたけれども、入学したとたん、『自分より頭のいい人がたくさんいる』という挫折感を学生の半分が初めて味わい、なかには大学に来なくなってしまう人がいる」

よい大学に入ることを勉強の目標にしてしまうと、目標を達成したあと、なんのためにさらに学んでいくのか、自分を見失いやすくなります。

そんな未来を想像すれば、子どもを勉強机にしばりつけて「勉強しなさい」と言うことに意味はないとわかります。

学ぶ楽しさを教え、そこから「自分にとって楽しい学びの領域はどこだろうか」と子ども自身が夢を見られる力を持たせることこそ大切です。

そのためには、子どもの知的好奇心こそが重要です。

子どもは好奇心のかたまりです。

子どもが勉強をしているときには、ちょっとのぞき込んで、「へぇ、すごい勉強をしているね」「おもしろそうだね」と関心を示してあげるだけでも、子どもの知的好奇心を刺激できます。

子どもが「わからない」「もっと知りたい」と言ったときには、一緒に図鑑や辞書を開き、あるいは図書館や博物館へ行くなどして、世界を広げてあげましょう。

親が先生になる必要はありません。

指導する必要もありません。

子どもは一緒に考え、学ぶことを楽しむ相手を、親に求めているのですから。

PROFILE

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。

渡辺弥生

大阪生まれ。
筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだ後、筑波大学、静岡大学、ハーバード大学客員研究員、カリフォルニア大学サンタバーバラ校客員研究員を経て、法政大学文学部心理学科教授。
同大学大学院ライフスキル教育研究所所長。
専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。
社会性や感情、道徳性の発達研究と対人関係の問題行動の予防やソーシャルスキルトレーニングに力を入れている。
最近は、ソーシャル・エモーシショナル・ラーニングの教育支援のもとに幼児や大人までを対象に教育実践も行っている。

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法政大学文学部心理学科教授。教育学博士
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