「片づけなさい」と口うるさく言わないほうがいい理由 - 発達心理学の専門家コラム

コラム・弥生先生の心の相談室

しつけ/育児

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士
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「片づけなさい」と口うるさく言わないほうがいい理由

親が子どもにくり返し言う言葉の一つに「片づけなさい」があります。

では、家の中を整えることは、子どもの心の発達にどのような意味を持つのでしょうか。

たとえば、「割れ窓理論」といって、学校の窓ガラスを割れたままにしておくと、他の窓ガラスも割られるなど、悪いことをする子どもが増えるといわれています。

掲示板のビラがはがれたままにしてある学校や、トイレが汚れている学校も、子どもたちの心が荒れやすいといわれます。これは家庭でも同じです。

心の状態は、自分が暮らす環境に少なからず影響されます。

物があふれ、汚れた環境にいると、気持ちがイライラして荒れていきます。

ですから、自分や子どもの気持ちがなんだか落ち着かないな‥‥‥というときには、心のせいばかりにせず、環境をきれいに整えることが大切です。

反対に、きれいにすればするほど、心によい影響をもたらすのかというと、実はそうともいえません。

潔癖なまでに整理整頓され、ピカピカに清掃された空間で、子どもがわずかにでも散らかすことを許さない環境では、リラックスできません。

「せっかく床拭きしたのだから、汚い足で歩かないで」と言われるようなことがあれば、気持ちも萎縮します。

家は家族にとってくつろぎの環境であるはずなのに、それが許されないと、安らぐ場所を見つけられずに心が弱ってしまいます。

しかも、子ども自身が過度の潔癖症になる可能性が高くなります。

こうなると、その子は外の環境に適応しにくく、苦労することになるでしょう。

つまり、私たちが家を整える意義とは、心からくつろげる環境をつくることが第一です。

ほどほどにきれいに、家族がおおらかな気持ちですごせる空間にすることです。

ですから、子どもに「片づけなさい」と頭ごなしに言うことは、本来の片づけの意義と反してしまいます。

ところが、家が散らかっていると「なんだか嫌だな」と親が感じ、とりあえずきれいにしたいため、あまり意味を考えずに、子どもについ「片づけなさい」と言っているところがないでしょうか。

しかしそれは、子どもからくつろぎを奪うだけです。

「くつろげる空間」を家族で考えてみるのもよいでしょう。

色やモノの配置など、私たちの心は、常に環境の影響を受けているものです。

子どもに片づけをさせるならば、心の発達とセットで考えること。

それには、整理整頓する方法をまず教え、親子で一緒に実践し、片づけを習慣化し、一方で、あまり口うるさく「片づけなさい」と言わないことが大切です。

PROFILE

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。

渡辺弥生

大阪生まれ。
筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだ後、筑波大学、静岡大学、ハーバード大学客員研究員、カリフォルニア大学サンタバーバラ校客員研究員を経て、法政大学文学部心理学科教授。
同大学大学院ライフスキル教育研究所所長。
専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。
社会性や感情、道徳性の発達研究と対人関係の問題行動の予防やソーシャルスキルトレーニングに力を入れている。
最近は、ソーシャル・エモーシショナル・ラーニングの教育支援のもとに幼児や大人までを対象に教育実践も行っている。

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法政大学文学部心理学科教授。教育学博士
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