【掲示板の声×公認心理師】 「限界」「一人になりたい」「消えたい」―― 追い詰められる親の心理と、その前にできること

てつなぎ掲示板に寄せられた「限界」「一人になりたい」「消えたい」という親たちのリアルな声をもとに、 公認心理師・田村俊作先生が、追い詰められる心理や助けを求められない理由、その前にできることを解説します。

親子関係

公認心理師
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【掲示板の声×公認心理師】 「限界」「一人になりたい」「消えたい」―― 追い詰められる親の心理と、その前にできること

「限界」
「一人になりたい」
「消えたい」

てつなぎ掲示板には、そんな言葉が数多く届いています。子どもを愛しているはずなのに、笑えない。 怒りたいわけじゃないのに、怒ってしまう。 「このままでは何かしてしまうかもしれない」そんな思いを抱えながら、一人で耐えている親は少なくありません。

令和6年度の児童虐待相談対応件数は22万3691件(こども家庭庁)。数字になっていないところで、誰にも言えず、静かに追い詰められている親がもっと多くいるのかもしれません。

この連載「【掲示板の声×公認心理師】」では、てつなぎ掲示板に寄せられた声をもとに、公認心理師・田村俊作先生に話をうかがっています。

田村先生はカウンセラーとして約20年、子育てに悩む保護者と向き合ってきた専門家です。今回は、「限界状態の心理」「追い詰められる構造」「助けを求めることの難しさ」「それでも一歩を踏み出すために」この4つを聞かせてもらいました。

「怒ってるんじゃない」。限界ってどんな状態か|ポリヴェーガル理論と笑えなくなる理由

掲示板に、こんな投稿がありました。

怒ってるんじゃない。限界を何回も越えて、もう笑えなくなっただけ。
(匿名 さん/30代/ 投稿を見る

てつなぎ編集部
この言葉、最初に見た時すごく正直な表現だなって思いました。怒ってるわけじゃない、嫌いになったわけじゃない。でも笑えない...、みたいな...。すごくわかる気がします。
田村先生
「笑えなくなった」っていう表現は、「冷酷だ」とか「愛情が冷めた」っていうようにとらえがちですが、そうじゃないんですよね。「これ以上は体が壊れちゃう」っていう判断で頭の中でストップをかけてるとか、麻痺させてるような感じかな。
もし本当に愛情がなかったり気持ちが冷めちゃったら、“無関心”になると思うんですよね。「無関心になる」とか「興味ない」になると、心は壊れなくなるから。
でも、心が壊れちゃいそうで“笑えない”状態でも「やっぱり期待しちゃう」とか「こういうことを子供のためにしなくっちゃ」って思えるその親の“愛情”が、「笑えなくなった」状態の一番“前提”にあるのかなとは思います。
てつなぎ編集部
こういう相談はやっぱり多いんですか?
田村先生
多いですね。でも、「子供をよく育てなくっちゃ」とか「よくやらなくっちゃ」っていう気持ちは、要はそこに“葛藤”があるから起きる状態だと思うんですよね。
てつなぎ編集部
確かに。子どもへの思いがあるから葛藤する、ということですもんね。その葛藤の先の“限界の状態”って、心理的にはどういう状態なのでしょうか?
田村先生
これは、最近話題になってる「ポリヴェーガル理論」が当てはまるんじゃないかな。“自律神経系の三層構造”っていう風に言われるんですけどね。

「社会的交流システム」は、誰かと話したり、安心を得るっていう、緑の状態。そこから「闘争・逃走システム」になって、イライラする、怒る、怒鳴る状態。これが多分限界を超える直前で、赤の状態ですね。
そして、最後に「防御的不動化」。これでもうシャットダウン。限界を超えるっていう。
「笑えなくなってる」っていうのは、怒ってるんじゃなくて、限界を何回も超えてもう笑えなくなってるだけっていうのが、このポリヴェーガル理論によくハマるのかなと。
怒るっていうのはまだ「どうにかしたい」っていう状況で、赤。でも「笑えない」というのは、シャットダウン状態なのかなとは思います。

構造化することによって、「自分の気持ちってここだよね」って認識して、コントロールできるようにするっていうのが大事なことかなと。

📘 編集部注:ポリヴェーガル理論について
アメリカの神経科学者スティーヴン・ポージェス博士が提唱した理論。
自律神経系を3層で捉え、①社会的交流システム(安心・つながり)→②闘争・逃走システム(興奮・怒り・不安)→③背側迷走神経系(シャットダウン・麻痺)という階層として説明する。
ここ5〜6年で日本でも広がりつつある考え方。

てつなぎ編集部
自分が今どこにいるかを知ることって、大事なポイントになりそうですね。「今私は赤の状態なんだ」って気づくだけでも、ちょっと違う意識になりそうですね。
田村先生
そうそう。赤にならないためにも、緑の状態(社会的交流システム)の段階で、いろんな人と話をするっていうことが大事なんだと思うんですよね。

「異常な親」じゃない。普通の親が追い詰められる構造|別室に逃げることの意味

こんな投稿もありました。

叩きそうになるの堪えて別室にいる。
(名無し さん/30代/ 投稿を見る

1人で暮らしたい。仕事の会議中もわめく、騒ぐ。病院も行く行かないで揉めて、寝るまでグチグチ続けて、もう限界。疲れた、一人でゆっくり暮らしたい。
(支援級の子 さん/40代/ 投稿を見る

てつなぎ編集部
この投稿の「叩きそうになって別室に逃げた」っていう状態、どう思いますか?
田村先生
これって、誰でもありますよね。逃げることは、最も賢くいいやり方だと私は思う。
「ストレス状態から逃げる」っていうことは全然悪くない。逃げるっていうのは一時のしのぎかもしれないけど、それはそれでありだと。
「自分はひどいことをしちゃってる」って責める人がいたりするのかなと思うけど。でも、「ストレス状態のリスクを感じたから、別室に逃げる」っていうことは、自分をコントロールできてるっていうことだから。それを肯定的に捉えてもらえるといいと思います。
“悪循環を断ち切るタイミング”っていうことなのかなって感じがしますけど。
てつなぎ編集部
「逃げた自分を責めなくていい」っていう田村先生のメッセージ、すごく心強いですね。私も追い詰められた時にとにかく家を出たことがあったんですけど...、でも出たら少し冷静になれたんですよね。
田村先生
悪くないと思いますよ。外に出たりとかね、気分転換にドライブするって言った保護者もいたし。子供も大きければ、「やっちゃったな...」「親、怒らせちゃった...」って、気まずい感じになって反省したりするからね。
てつなぎ編集部
そうですよね。でも、場所変えたりで一時的に逃げても、罪悪感みたいなものが頭から離れないって人も多いと思うんですよ。逃げてる自分をまた責めちゃう、みたいな。そういう悪循環って断ち切れるるものなんですか?
田村先生
そういった悪循環から抜け出すのは実際、難しいと思うんだけど。でも親自身が休むタイミングだったり、それこそさっき言った「ポリヴェーガル理論」の“社会的交流システム(緑)”の状態の時に、人と交流する、共感する場面に立ち会う、ってことがとても大事だと思います。完全に脱するのは無理だと思いますが。
でも、ご褒美は大事ですよね。お風呂から出たら甘いコーヒー牛乳飲むとかね(笑)。一時的にでも、プラスアルファの何かをするしかないですよね。

子育ては、もしかしたらうまくできないかもしれない。でも、他のところでうまくできてればそれで問題ない。それで、自己肯定感を保てるじゃないですか。ちょっと今回うまくいかなかったけど、まあ他の部分で、私仕事頑張ってるしな、とかね。
学校とか保育園行ってる間でもいいから、うまく逃げるってことが大事。ショートステイとか、産後支援ヘルパーさんとかやってるとこもありますよね。
あとは単純に、ご飯作るのちょっと疲れたから休むってのもいいと思いますよ。Uberを使ってもいいと思うしね。
てつなぎ編集部
逃げていい、Uberでいい、手抜きでいいって言ってもらえると、なんか少し安心します(笑)。
田村先生
うん、手抜き大事です。

誰も見ていない。孤立と「そこまでの我慢」|ゼロヒャク思考と極端な認知

こんな声もありました。

感情が爆発するとき。根っこにある理由を教えて。
(共働きワンオペ3児ママ さん/40代/ 投稿を見る

てつなぎ編集部
親の気持ちが爆発する瞬間だけが外には見えて、そこに至るまでの内側の積み重ねは誰にも見えていないっていうね...。わかる気がします。カウンセリングの現場で、こういうお母さんの孤立感ってよく出てきますか?
田村先生
孤立感のある方、いっぱい会いますよ。
てつなぎ編集部
そうですよね...。そういった孤立した状態が続くと、気持ちにどんな変化が起きていくんでしょうか。
田村先生
たとえば、ワンオペ子育てが続くと、些細なことに敏感になって怒ったりとか。赤だったり、一番最後のシャットダウン状態に行きやすくなるっていうのはあると思います。
あと、極論になりやすいのかもしれない。白か黒かみたいな極端な認知。「一人暮らししたい」とか、「自分が消えるしかない」とかね。

子育てってそれこそ永遠に続くもんだから。そういった不安感が強くなって、「消えるしかない」「消すしかない」、最悪「この苦しみを消すために子供を殺してしまおう」って思ってしまうケースもでてくるのかもしれない。こういった、100/0(ゼロヒャク)思考っていうのに陥りやすくなると思います。
100/0思考だからこそ、同じように苦しんでる他の人のリアルな声が入りづらくなるのかなとは思います。「自分の家のほうがもっとしんどい」とかね。周囲からの注意も聞き入れづらくなるとは思います。

それだけ子供を守るのに一生懸命、ということなんだと思いますけどね。

そこまでの我慢が積み重なって、極端な認知になって、最悪なケースになるパターンは、大いにあると思います。
てつなぎ編集部
それだけ子どもを守るのに一生懸命だったお母さんが、なんで?...という悲しい事件もあとをたたないですもんね...。こういった極端な認知になる前に、そのSOSに周りも気づけるといいんですけどね...。

限界なのに気づけない。「助けて」と言えない構造と、一歩を踏み出すために|SOSのサインと相談窓口

何かしでかす前に施設入れようかな。
(匿名 さん/30代/ 投稿を見る

通報されるレベルでキレ散らかした。通報してもらって構いません。どこか預かってほしいのです。
(匿名 さん/30代/ 投稿を見る

てつなぎ編集部
「何かしでかす前に施設入れようかな」って言葉の投稿、その方の悲痛なSOSにも感じたのですが、先生の目にはどう映りましたか?
田村先生
「子どもを施設に入れたい」って思うのは、それだけ自分の限界をわかって、これ以上やるとまずいなと思ってるからこそですよね。
この投稿だけみると、孤立感が高い様子なので、リスクは高い状態だとは思います。

子どもを守りたいと思ってるのに、自分自身が限界で「消えたい」とか、「この子を傷つけてしまうかも」っていう恐怖の気持ちも生まれてしまう、その“アンビバレントな状態”が同時に存在するからこそ、助けを求めづらいっていうところは出てくるのかなと思います。
てつなぎ編集部
「助けて」って言えない人って、弱いんじゃなくて、“言えない状態”ってことなんですね。そういう人って、周りから見てどんなサインが出てたりするんですか?
田村先生
“感情のマヒ”っていうのが起こりやすいのかもしれない。自分が疲れているかどうかっていうのがわかんなくなって、プチンと息が切れて、「あ、もうダメだ...」みたいな。そんな状態で、イライラして子供に手を上げるっていうシチュエーションにつながるのかなと。

小さなことでも気持ちを抑え込んでると、疲れてるセンサーがどんどん鈍感になって、しんどくなりやすくなるのかもしれない。

食事が取れないとか、睡眠が取れないとか、怒りっぽくなってくるとか。あとは身なりが綺麗じゃなかったり。情緒的に不安定にもなると思いますよ。軽度のうつみたいな感じで、意味もなく涙が出ちゃうとかね。
てつなぎ編集部
食べられない、眠れない、涙が止まらないは、自分では気づけなくても、それはもうSOSのサインなんですね。
こういう状態になったら、まずどこに相談すればいいんですか?
田村先生
自治体の子ども家庭支援センターですかね。相談は、結構すぐ受けてくれます。電話とかでも。
育児は一人でやらないで、みんなでやるってことが大事だと思います。一人でやるとやっぱりキャパシティの限界はあるから。みんなでその環境とか社会福祉の部分も、そういった環境をうまく利用しながら育児っていうものに付き合っていくってことは大事。楽しみながら付き合っていくことが大事かなとは思いますけどね。

「追い詰められてるのは、頑張ってる証拠」って言葉が大事かな。でもそれには限界があるから、ちょっと人を頼りましょうってことかな。
「一人じゃないよ」って...まあ、実際そう感じちゃうんだと思うけど...。でも「助けて」って言えば、必ず手を差し伸べてくれる人がいると思います。
てつなぎ編集部
その時は「自分は一人...」「誰も助けてくれない」「わかってくれない」って、感じちゃいますよね...。でも「助けてほしい」ってその一言を言えることが、すごく大事な気がします。

【相談できる場所】
・子ども家庭支援センター(各自治体)|電話相談可。ショートステイ等の支援制度へもつないでもらえます。
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・子育て支援ヘルパー・産後ケア事業(各自治体によって異なります)
・相談支援事業所(障害のある子の保護者の場合)

おわりに

今回の話を聞いて、いくつかの言葉がとても印象に残りました。

「怒ってるんじゃない、限界を何回も越えて、もう笑えなくなっただけ」
「別室に逃げることは、自分をコントロールできている証拠」
「追い詰められているのは、頑張ってきた証拠」
「一人じゃないよ。助けてって言えば、手を差し伸べてくれる人がいる」

田村先生とお話ししながら、自分のことと重なる場面がいくつかありました。あの時の自分に、これを読ませてあげたかったです。

追い詰められることは、弱さではない。ただ、一人でいすぎただけかもしれない。

このインタビューコラムが、今夜少しだけ肩の力を抜くきっかけになっていたら嬉しいです。

田村先生、今回もありがとうございました。

相談できる場所

・子ども家庭支援センター(各自治体) 電話・窓口相談可
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・子育て世帯訪問支援事業(令和6年4月〜)
・こども誰でも通園制度(2026年度全国展開)

PROFILE
公認心理師・スクールカウンセラー。不登校・いじめ・発達支援・保護者の精神的負荷を専門とする。約20年にわたり学校現場で子どもと保護者の相談に携わる。

一人で抱え込まないために

この記事を読んで、「これ、自分のことかもしれない」と感じた方へ。

てつなぎ掲示板には、「限界」「一人になりたい」「もう笑えない」といった、誰にも言えなかった本音が毎日のように寄せられています。

「今日しんどかった。」

その一言だけでも構いません。

うまく言葉にできなくても、答えが出ていなくても大丈夫です。

あなたの気持ちを書いてみませんか。

誰かの投稿に「私だけじゃなかった」と救われることがあります。

そして、あなたの言葉が、次に誰かの支えになるかもしれません。

一人で抱え込まなくていい場所として、いつでもお待ちしています。

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