不安専門カウンセラーが伝える!――がんばり過ぎるお母さんの心を軽くする心理学

あなたは、何も悪くない。不安は、いのちが安心して生きたいと訴えているサイン。上手に付き合って本来のやさしさを取り戻せる「救いの書」です。1万2000もの“悩み”に向き合ってきた公認心理師が贈る心の守り方。

しつけ/育児

公認心理師、臨床心理士の資格を持つ不安専門カウンセラー。
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「怒鳴りたくないのに、また怒ってしまった……」と落ち込む親御さんへ。怒りは心が発するSOSであり、反省よりも「修復」が大切です。感情の波に飲まれず心を整え、心にゆとりを取り戻して子どもと向き合うためのヒントが満載。
柳川 由美子さん著書『子育ての不安と孤独をほぐす心理学』から一部転載・編集してお届けいたします。

がんばり過ぎるお母さんの心を軽くする心理学

「子ども=自分」という思い込みのワナ

朝の支度がなかなか進まない子どもに、つい「早くして!」と急かしてしまう。

そして、出かけた後で、「私の段取りが悪かったせいだ・・・」と落ち込む。

また、せっかく作った食事を子どもが残すと、「ちゃんと食べさせられない私はダメな親」と自分を責めて悲しくなる。

子どものペースや好みは本来その子自身のものなのに、それを「自分の評価」や「努力不足」と重ねてしまう―――そんな瞬間は、親なら誰にでもあるのではないでしょうか。

境界線は「冷たさ」ではなく、「健やかな距離」

心理学では、人と人との間にある見えない境界線を「バウンダリー」と呼びます。

これは相手をつき放すためのものではなく、「どこまでが自分で、どこからが相手か」を見極めるための、お互いが心地よく過ごすための大切なラインです。

この境界線があいまいになると、子どもの気分や行動に親が巻き込まれ、一緒に落ち込んだり、イライラしたりしてしまいます。

反対に、境界線を引こうとするあまり、心の壁を作ってしまうと、子どもの気持ちに寄り添えなくなってしまうこともあります。

心理学でも、子どもの感情と自分の感情を切り分けられないと、親の育児ストレスが高まりやすいと言われています。

これは決して冷たい親だから悩むのではなく、むしろ共感力が高い親ほど、子どもの感情を“自分のことのように共有し過ぎてしまう”傾向があるためです。

バウンダリーを保つ3つの視点

1.「私は私、あなたはあなた」と心の中でつぶやく

子どもの感情を受け止めながらも、「この気持ちはこの子のもの。私が代わりに引き受けてあげる必要はないんだ」と心の中で線を引く意識を持ってみましょう。

例えば、兄弟げんかでどちらも泣き出してしまった時など、焦ってなだめようとする前に、ひと呼吸おいて「これは、この子たちの間で起きていること。私は落ち着いて見守ろう」と心の中でつぶやいてみてください。それだけで、親の心が子どもの感情に巻き込まれにくくなります。

2.親の役割は「支える土台になること」と考える

子どもは自分の意思と責任で生きる存在です。親は“支配者”ではなく、“安全基地”として側にいる役目。そう捉えると、自然と境界線を保ちやすくなります。

子どもが失敗して落ち込んでいる時、「次はちゃんとできるようにしなきゃね」と立て直しを促すよりも、「うまくいかなくて悔しかったね」と気持ちを受け止め、「どうしたら次にできそうかな?」と問いかけてみましょう。子どもは自分で“考える力”を取り戻していきます。発達心理学者のエドワード・デシの研究でも、「自分で選び、考え、試す経験」が子どもの内発的なやる気を高めると示されています。

3.共鳴はしても、共倒れしない

子どもの不安や怒りに共感しながらも、巻き込まれずにいられる自分を持つこと。深呼吸をしてから言葉をかける、いったん席を外して心を整えるなど、感情の間にワンクッションを置く習慣をつけてみましょう。親が落ち着いた状態で接することで、子どもの感情もコントロールしやすくなります。

境界線を意識すると、関わり方が変わる

例えば、子どもが友達とケンカをして、「もう○○ちゃんとは遊ばない!」と怒って帰ってきたとします。

境界線があいまいだと、親は「私が○○ちゃんのママに謝っておくから」と、子どもの問題を“横取り”して解決しようとしてしまいます。

境界線を意識すると、まずは「そうか、そんなに腹が立ったんだね」と気持ちを受け止めます(共鳴)。

その上で、「あなたは、本当はどうしたいの?」とやさしく問いかけ、子どもが自分の行動を振り返るきっかけを促します。

親が一方的に正すのではなく、見守ること。

それこそが、お互いを尊重する健やかな関係を支える土台となってくれます。

ここで、少しご自身に問いかけてみてください。

あなたはお子さんのことを、どのくらい「自分のこと」と感じているでしょうか。

・子どもの行動で、自分が評価されているように感じることはありますか?

・それは「失敗させてはいけない」という不安とつながっていませんか?

その思い込みに気づくことが、新しい距離感を作る第一歩かもしれません。

まとめ

●境界線(バウンダリー)は、親の心を守り、子どもが自分で選ぶ土台になる。

●「私は私、あなたはあなた」と心の中でつぶやき、感情の巻き込まれを防ぐ。

●子どもの問題を横取りせず、「どうしたいか」を問いかけて自分で考えさせる。

●「共感しても共倒れしない」という親の心の安定が、子どもの一番のサポートになる。

がんばり過ぎる母が増えた背景

「いい母親像」は時代とともに拡大している

子どもの問題までつい背負い込んでしまうのは、私たちが日々の育児の中で「がんばり続けること」に慣れきってしまっている現実があります。

朝は時間との戦い、帰宅すれば家事と子どもの世話、ようやく寝かしつけを終えたころには、自分の気力が残っていない。

それでも、「もう少しがんばらなきゃ」と自分を奮い立たせてしまっていないでしょうか。

今、社会の中で静かに広がっているのは、「がんばらなければ価値がない」という無言のメッセージです。

それが、母親たちの心を気づかぬうちに追いつめています。

かつては、「家を守り、子どもを育てるのが当然」という母親像が一般的で、近所とのつながりの中で、誰かが助けてくれることも多い時代でした。

でも今は、女性の社会進出が進み、「仕事も家庭も両立してこそ立派な母」という新しい理想も加わっています。

そのため、母親たちは板挟みになりがちです。

働いていると「子どもがかわいそう」と言われ、専業主婦になると「せっかくのキャリアがもったいない」と言われる。

近年の心理学研究では、「ちゃんとした母親でいなければ」という社会的プレッシャーが強いほど、母親は自分を責めやすくなり、不安や自己否定につながりやすいことが示されています。

理想が広がり自由度が増した一方で、どんな選択をしても誰かに評価されるというプレッシャーが生まれているのです。

「理想の母」という見えない台本

現代の母親像に求められる役割は、かつてよりもずっと広い範囲に及んでいます。

食事は安全で栄養バランスが取れていること、科学的な知識に基づいて子育てをすること、決して感情的に怒らないこと、知育や早期教育も適切に取り入れること、そして自分自身のキャリアもあきらめないこと。

こうした「すべてをうまくこなすのが当たり前」というイメージが、知らず知らずのうちに母親の心を追いつめています。

ハーバード大学のジェニファー・ラーナー教授は、現代の母親は「完璧にできて当たり前」という、社会が勝手に用意した“見えない台本”の中で、一生懸命に生きているのだと伝えています。

このような見えない基準こそが、自己否定感や慢性的な疲弊を生みやすいのです。

育児という名の「感情労働」

これら無数の“やるべきこと”をさらに過酷にしているのが、自分の感情をコントロールして相手に安心感を与える「感情労働」としての側面です。

子どもがぐずっても笑顔であやし、疲れていても「大丈夫」と落ち着いて対応する。

1日中、子どもの安心を保つために感情を整え続けるのは、誰にも代わってもらえない24時間の重労働です。

あなたが疲れてしまうのは、それほどまでにお子さんを思いやり、自分の感情を差しおいて向き合い続けている証拠なのです。

無数のまなざしが心を休ませない

現代のお母さんを取り巻くのは、“無数のまなざし”です。

夫、義実家、保育園や学校の先生、ママ友、そしてSNSのフォロワー。

誰もが、母親を評価する存在になり得る社会構造があります。

SNSを開けば、誰かのがんばりや理想的な家庭が絶え間なく流れてきます。

「私ももっとちゃんとしなきゃ」と感じてしまううちに、心が休む暇もなく動き続けてしまう人も少なくありません。

家庭の空気を保とうとするあまり、「私が明るくしていなきゃ」「機嫌を悪くしてはいけない」と気を張り続けるお母さんもいます。

家族を思う優しさが、いつのまにか自分を縛るプレッシャーに変わってしまうのです。

あなたが今、疲れを感じているとしたら、決して弱いからではありません。

むしろ、これほど多くの期待とまなざしの中で、必死に子どもを守り抜いてきたからです。

「今日はここまでがんばった」と、自分自身に小さく区切りをつけてみてください。

完璧を目指して走り続けるよりも、まずは自分をいたわる一歩を。

それが、母親としてではなく、一人の人間としての安心を取り戻す大切な時間になるはずです。

まとめ

●がんばり過ぎる背景には、社会の変化による「見えない期待」の増大がある。

●仕事・家庭・育児のすべてに完璧を求める風潮が、母親の心を追いつめている。

●育児は24時間体制の「感情労働」であり、疲れるのは思いやり続けた証拠である。

●SNSなどによる他者との比較が、心を休まらない状態にさせている。

●完璧を目指すより、「自分をいたわる一歩」が安心への近道になる。

PROFILE

公認心理師、臨床心理士の資格を持つ不安専門カウンセラー。

柳川 由美子

鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科を卒業後、東海大学大学院の前期博士課程を修了。もともとはピアノ教師だったが、義母の末期がんの看病をきっかけにカウンセラーを志す。自身の不安症を克服した経験から、大学院では「脳は心を解き明かせるか」「脳から見た生涯発達と心の統合」などを学ぶ。2005年より大学やメンタルクリニック、企業研修などで活動を開始し、現在は「メディカルスパ西鎌倉」「メディカルスパみなとみらい」でカウンセリングを行う
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