不安専門カウンセラーが伝える!――育児の不安と孤独は「あなたのせい」ではありません
あなたは、何も悪くない。不安は、いのちが安心して生きたいと訴えているサイン。上手に付き合って本来のやさしさを取り戻せる「救いの書」です。1万2000もの“悩み”に向き合ってきた公認心理師が贈る心の守り方。
妊娠/出産
「怒鳴りたくないのに、また怒ってしまった……」と落ち込む親御さんへ。怒りは心が発するSOSであり、反省よりも「修復」が大切です。感情の波に飲まれず心を整え、心にゆとりを取り戻して子どもと向き合うためのヒントが満載。
柳川 由美子さん著書『子育ての不安と孤独をほぐす心理学』から一部転載・編集してお届けいたします。
育児の不安と孤独は「あなたのせい」ではありません
育児中の「理由のない不安」は脳の自然な変化
出産を終え、赤ちゃんとの生活が始まると、「かわいいわね。今が一番いい時期よね」などと声をかけられることもあるでしょう。
あるいは、メディアやSNSなどで「幸せいっぱいの育児」というイメージを目にする機会も多いかもしれません。
けれど実際には、「眠れない」「理由もなく泣きたくなる」「ちょっとしたことで不安が膨らむ」といった、予想もしなかった心身の変化に戸惑うお母さんがたくさんいます。中には、「私だけおかしいのかな」「ちゃんと親になれていないのかも」と自分を責めてしまう方もいます。
でも、どうか知っておいてください。
それはあなたが弱いからでも、性格のせいでもありません。
不安とは「まだ起きていない未来」に備える脳の予習
心理学では、不安は「未来に起こるかもしれない危険を予測し、備えようとする心の働き」だと考えられています。
つまり、不安は必ずしも“敵”ではありません。
赤ちゃんの泣き声を聞いて、「お腹が空いているのかな」「どこか痛いのかな」と即座に対応できるのも、脳が最悪のケースを予測して備えようとしてくれるおかげです。
近年の神経科学の研究でも、出産後の女性の脳は構造が変化し、赤ちゃんを守るために「危険を察知するセンサー」がひときわ敏感になることがわかっています。
母親の脳は、常時サーチモードに切り替わるのです。
「ずっと気が張っている」「リラックスできない」と感じるのは、このためです。
赤ちゃんが寝ている時でさえ、「もうすぐ起きるかも」「夜泣きが始まるかも」と落ち着かないことがありますよね。
これは「予期不安」と呼ばれ、脳の警戒ネットワークが正常に働いている証拠で、気のせいではありません。
不安の「しくみ」を知れば、自分にやさしくなれる
以前カウンセリングでお会いしたNさんも、「赤ちゃんは順調に育っているのに、突然いなくなったらどうしようとか、ずっと最悪の事態ばかり考えて毎日怖くて・・・」と語ってくれました。
夜は小さな物音で目が覚め、朝には胸が重くなる。
そんなNさんも、「それは脳が出産後に警戒モードに切り替わる自然な変化なんですよ」とお伝えすると、「私が壊れたわけじゃなかったんだ」とスッと表情がやわらぎました。
子どもの成長とともに、「お友達と遊べているかな」「勉強はついていけてる?」「いじめられていないかな」・・・・・・と心配の種類は次々と変わっても、その根っこにある原因は共通しています。
それは、大切なわが子を守ろうとする脳の自然な反応なのです。
「私が弱いからじゃない。脳がわが子を守ろうと、がんばり過ぎているだけなんだ」と理解できれば、自分を責める気持ちもやわらぎ、心穏やかに子どもと向き合うゆとりが生まれてくるはずですよ。
まとめ
●育児中の不安は性格や努力不足のせいではなく、脳が未来に備える自然な反応。
●出産後の脳は、赤ちゃんを守るために常に“警戒モード”になっている。
●心配の対象が変わっても、根底には「大切な存在を守りたい」という愛がある。
●不安になりやすいのは弱いからではなく、脳がしっかり働いている証。
母と父で違う「不安」のカタチ
こうして脳が「赤ちゃんを守るモード」に切り替わるのは、母親だけではありません。
しかし、身体の大きな変化を伴う母親と、社会的な役割の変化を感じる父親とでは、不安の「カタチ」が少し違って表れることがあります。
出産後の母体には、ホルモンバランスの急激な変動をはじめとする、大きな身体的な変化が訪れます。
こうした身体の変化と、「親になった」という責任感は、母親と父親それぞれに特有の不安をもたらすことがあります。
まず母親の場合、女性ホルモンが出産とともに急低下し、代わりに母乳分泌や愛着形成に関わるホルモンが優位になります。
これらは赤ちゃんを守るために不可欠なものですが、心や自律神経(心拍や呼吸などをコントロールするシステム)にも強い影響を与えます。
特に産後は、体が常に “戦闘モード”のような緊張状態に陥りがちです。
その結果、「疲れているのに眠れない」「涙があふれる」「ささいなことでイライラする」といった状態が現れやすくなります。
これは多くの母親が経験する自然な反応であり、産後1か月以内の女性の30〜40%が不眠や情緒不安定を経験するとも言われています。
母親の不安は「命や発達」に向かいやすい
出産後の母親の脳は危険を察知するセンサーが敏感になり、赤ちゃんの泣き声や表情に強く反応するようになります。
赤ちゃんを守ろうと常に気を張っているため、「これでひと安心」と思っても、すぐに「本当に大丈夫?」と不安のスイッチが入りやすいのです。
そのため母親の不安は、わが子の「命や発達」に直結する部分に向かいやすい傾向があります。
例えば、幼稚園の発表会が近づくと、「緊張で泣き出してしまわないか」「周りの子と比べて発達が遅れていないか」といった心配で眠れなくなるというお話を伺うことがあります。
これも、安心センサーが過敏になって起こる自然な現象なのです。
父親の不安は「社会的な評価」に向かいやすい
一方で、父親にも特有の不安があります。
母親と同じ“わが子を守りたい気持ち”から来るものですが、父親は集団生活でのルールや外での態度といった「社会性や評価」に不安の焦点が当たりやすい傾向があります。
例えば、同じ「幼稚園の発表会」という場面でも、お父さんからは「わが子がセリフを忘れて周りに迷惑をかけないか」「ちゃんとできなくて、だらしない親だと思われるのではないか」といった心配で前夜は眠れなくなった、というお話を伺うことがあります。
そういった不安から、つい厳しく叱ってしまうのもその一例です。
背景には、男性も育児に積極的に関わることが期待されるようになった、現代社会ならではのプレッシャーも影響しているのでしょう。
脳の働きにも表れる「不安のカタチ」の違い
こうした不安の現れ方の違いは、脳の働きにも関係しています。
神経科学の分野でも、母親は赤ちゃんの泣き声などに即座に反応して不安を感じやすい一方、父親は子どもと関われば関わるほど脳内で安心ホルモン(オキシトシン)の分泌が高まり、「何とかしなければ」という忘れ物チェックや宿題の見守りといった具体的な行動に移りやすい、という違いが指摘されています。
不安のカタチに違いはあっても、その根底には「わが子を守りたい」という共通の強い気持ちが流れています。
お互いの感じ方の違いを認め合うことが、手を取り合って育児に向き合う土台となり、結果として子どもにとっての大きな安心につながります。
不安の「しくみ」を知れば、少しラクになる
母親・父親に共通して不安を強める要因に「睡眠不足」があります。
ひと晩の睡眠不足だけで、脳の不安センサーの活動が60%以上も増加するという報告もあります。
眠れない状態が続くと、ささいな刺激にも過剰に反応しやすくなってしまうのです。
育児の不安には、ホルモンや睡眠、脳の反応といったさまざまな「しくみ」が関わっています。
背景を知るだけで、「私がダメなせいじゃない。これは自然な反応なんだ」と少し冷静に受け止められるはずです。
不安は親としての責任感や愛情の裏返しでもあります。
そのしくみを理解することが、自分を不必要に責めずに、不安と上手に向き合っていくための大きな助けとなるでしょう。
まとめ
●産後はホルモンの急変動により、体が常に「戦闘モード」になりやすい。
●母親の不安は「命や発達」、父親の不安は「社会性や評価」に向かいやすい。
●夫婦で不安の感じ方の違いを理解し合うことが、子どもの安心につながる。
●睡眠不足は、脳の不安センサーを過剰に反応させる大きな原因になる。
●不安の背景にある「しくみ」を知ることが、自分を責めないための助けになる。
公認心理師、臨床心理士の資格を持つ不安専門カウンセラー。
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