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大人気の精神科医が伝える心の声“とりあえず「大丈夫」って言わないで!”

精神科医としてこれまで3万人以上をみてきた著者が、子育て中のお母さんに伝えたいメッセージとともに、「子育てで大切なこと」をまとめました。

更新日:

精神科医さわ
児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師

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とりあえず「大丈夫」って言わないで

安易な「大丈夫!」は、子どもの不安を増強させるだけ

私たちは目の前の相手を励まそうとして「大丈夫」という言葉を使うことがあります。

精神科医の立場から言わせていただくと、この「大丈夫」には少し注意が必要です。

とくに不安の強い子どもには、根拠や確証もなく、安易に「大丈夫」と言わないほうがいい場合もあります。

たとえば、「家に泥棒が入るかもしれない」といった不安を抱えて眠れなくなる子どももいます。

そういうとき、親はとりあえず目の前の子どもを安心させたくて、「大丈夫!泥棒なんて来ないから」と言ったりすることがあると思います(でも、家に泥棒が入らない保証は100パーセントではありませんよね)。

子どもは「絶対に大丈夫って言えないのに、お母さんはなんで大丈夫なんて言うんだろう?」と、親の言っていることに矛盾を感じてしまいます。

患者さんの中には、何度も手を洗っても自分の手が汚いのではないかと、過度に気になってしまう子もいます。

細菌やウイルスがつくことに強い恐怖や不安を感じて、何度も手を洗い続けるのです。

中には、菌やウイルスが手についてそれが全身をめぐって死んでしまうという考えに支配され、日常生活が制限されてしまうことがあり、強迫症と診断します。

それなのに、まわりから「大丈夫だよ。菌なんてついてないから」と言われると、厳密には無菌状態にすることは難しいわけですから、その子は途方に暮れて、ますます不安が増強してしまうのです。

また、「そんなに洗わなくても大丈夫だよ」と言われた場合も、その子は手を洗うことによって菌への恐怖をやわらげようとしているので、自分の気持ちを理解してもらえないと感じて不安がより強くなってしまうこともあります。

あるいは、「さっき手を洗ったんだから、大丈夫でしょ」と言う親御さんもいます。

でも、そう言われると、手を洗うことによって不安が一時的に減るという意識が強化されて、さらに手を洗う行為に執着するようになる子もいます。

実際には、手を洗ったからといって、すべての菌が取り除かれるわけではないし、なにかに触れば、またなんらかの菌が手につくことになります。

テキトーに「大丈夫!」という言葉をかけると、その子の心に届かないどころか、よけい不安を強めてしまうこともあるのです。

だから、その子が「多少の菌はついているかもしれないけれど、手を何度も洗ってもきりがない。それで死ぬわけではない」ということを、不安だけれど手を洗わないという体験を繰り返すことで受け入れられるようにするのです。

これは認知行動療法のひとつである「暴露療法」と言います。

「大丈夫」という声かけによって安心を与えるのではなく、本人自ら「大丈夫だ」と思えるような行動を応援してあげることが大切なのです。

そのため、「大丈夫だって。気にしすぎだよ」というように軽くあしらうのも、よくありません。

不安の強い子の中には、「明日、大地震が起こったらどうしよう...」とか「明日、地球が滅亡したらどうしよう....」などと不安の対象がどんどん広がっていって、不安で眠れなくなってしまうケースもあります。

そういう子に対して「大丈夫だよ、そんな大地震は起きないから」「地球が滅亡するわけがない」などと言うのは逆効果です。

そういうとき、私は診察室で「たしかに、大地震が起こる可能性はゼロではないよね」と認めたうえで、こんなふうに話しています。

「ただ、その確率は低いと思うし、大地震が起こったら、ちゃんとお母さんやお父さんが迎えに来てくれるって学校と決めてあるんだって。だから、そんなに心配しなくていいんだよ」

事実にもとづいていることなら「大丈夫」と言ってもいいのですが、大地震は起こらないなどと不確かなことを決めつけて、相手の不安を軽視してはいけないということです。

「どうしてほしいか」を子どもに聞いてみる

いずれにしても、子どもが不安を感じていたら、とりあえず「大丈夫!」と言わず、まずはその不安な気持ちに「不安なんだね」と寄り添ってあげてください。

もちろん、人それぞれ感じ方が違うので、たとえお母さんであっても、不安の強い子の気持ちを完全に理解することはできないかもしれません。

それでも、相手の不安を理解しようとする姿勢が大事なのです。

そして、「お母さんやお父さんになにかできることはある?」と、子どもにどうしてほしいかを聞いてみてください。

診療でも、「私はどうすればいいんですか?」とよく親御さんから聞かれるのですが、「どうしてほしいのかを、まずお子さんに聞いてみてください」と答えています。

「あなたが不安なことに対して、お母さんになにかできることはある?」と聞いてみて、なにかやってほしいと言われたら、できることであればやってあげてください。

もし、子どもに「(やってほしいことは)なにもない」と言われたら、「じゃあ、お母さんは待っているから、もしなにか困ったことがあったらいつでも言ってね」とおだやかに見守りましょう。

親としてみれば、子どもが過剰に不安になっていると思えば、つい「大丈夫だよ!」と言ってしまいたくなりますが、そこはグッと我慢して「なにかあったら、支えるからね。お母さんがそばについているからね」というメッセージを丁寧に伝えましょう。

▾ 児童精神科医のつぶやき ▾

不安の強い子には「不安なんだね」と寄り添う

PROFILE

児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。

精神科医さわ

1984年三重県生まれ。
開業医の家庭に生まれ、薬剤師の母親の英才教育のもと、医学部を目指す。
偏差値のピークは小学4年生。
中高時代は南山中学校高校女子部で落ちこぼれ、1浪の末に医学部へ。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。
母としては楽しみにしていた子育てだったが、発達特性のある子どもの育児に身も心も追いつめられ離婚し、シングルマザーとして2人の娘を育てる。
勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜こころクリニック」を開業。現在も毎月約400人の親子の診察を行っている。これまで述べ3万人以上の診察に携わっている。2023年11月医療法人霜月之会理事長となる。

「児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること」

著者名
精神科医さわ
出版社
 日本実業出版社

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