「常識的な勉強法」を再検証!――動画学習の落とし穴
データに裏付けられた「科学的エビデンス」+自衛隊などの現場で結果が出た「再現性のある学習」+「失敗・間違い」を上手に活用。だから、効率よくグングンと成績が伸びる。
教育
ただ時間をかける勉強から、戦略的に結果を出す学びへ。本書は、最新の科学的エビデンスに実践的な工夫(+α)を掛け合わせた「最も効率的な学習法」を徹底解説。短期間で目標を達成するための実践的なアプローチを紹介。
佐々木 淳著書の『科学的根拠+αで成果を出す 戦略的勉強法』から一部転載・編集してお届けいたします。
「わかりやすい」の裏側にある動画学習の落とし穴
近年では、動画サイトでわかりやすい授業動画を見ることができます。
でも、わかりやすい動画を見て納得しているのに、結果につながらない。そして・・・・・・悩む。
このような現象はよくあると思います。
結論を言うと、動画を眺めるだけの学習は、満足する分だけ「理解した」という錯覚に陥りやすいです。たとえ錯覚であったとしても「理解した」と思ったら、復習などの勉強がおろそかになります。
そして怖いのは理解をしたと思ったのに問題が解けないと、自分は頭が悪い・・・・・・などと余計なことを考えて心が折れてしまうことです。
心が折れて、勉強から遠ざかってしまうと結果や成果は出なくなりますよね。
これは自衛隊で痛感しました。
私が自衛隊で勤務し始めた頃は、所属する教育部隊で、いち早く動画学習が取り入れられていたときでした。まだYouTubeが存在する前のときのお話です。
しかし、テストで動画学習の理解度を確認すると見合った結果が出ず、数年やってみたものの失敗続き、いつしか動画による学習は「なきもの」になっていました。
そんな20年ほど前に自衛隊でうまくいかなかった「動画学習」を、今では多くの方がやっては失敗し迷走しています。
「見ているだけ」の危うさ
動画学習に関係する非常に面白い実験があります。
1963年に行われ、後に有名になった実験です。
実験では、2匹の子猫を特殊な装置に乗せて育てます(図1-1参照)。
図のように、猫Aは自分の足で歩き、周囲の景色を見ます。
猫Bは猫Aの動きと連動するゴンドラに乗せられ、同じ景色を見ますが、自分では動きません。そんな実験です。
しかし、結果は残酷でした。
自ら動いていた猫Aは、段差を避け、物に手を伸ばすことができましたが、ぶら下がって見ているだけだった猫Bは、猫Aのような行動がとれませんでした。
視覚情報をうまく行動に結びつけられなかったのです。
この実験は「ゴンドラ猫の実験」と呼ばれています。
この実験からわかることは、学習を定着させるためにはただ見ているだけでは不十分で、自ら「動く」などの身体感覚を伴った経験が重要になるということです。
この身体感覚を伴った経験を重視するのが自衛隊ですから、実践で結果が出るのです。
満足するだけの授業ではなぜ成績が伸びないのか
ゴンドラ猫の実験は、私たちの学習にも当てはまります。
ソファに寝転がり、2時間の解説動画を2倍速で見る。
「今日は1時間の勉強時間でタイパよく2時間分勉強した」と満足する。
理解もできて、さらに時間も短縮できたら満足しますよね。
よく見かけるコスパ・タイパのよい「動画学習」です。
しかし、テストになると、勉強時に見たことがある問題のはずなのに解けない・・・・・・。という、お決まりの絶望が待っている。
実は、これは「ゴンドラ猫」の状態です。
情報は見ているけど、身体動作が伴っていない。だから、テスト本番で「問題を解く」という身体動作の伴う行動ができないのです。
つまり、勉強は見ているだけでなく、「手を使って自分の言葉で説明しながらノートに書く、計算する、公式を使う、音読する」など、身体動作が伴わないと、テストなどで実際に動けず、結果に結びつかないのです。
動画学習については他にも興味深い研究結果があります。
2019年、米国の大学の研究チームは、同じ物理の内容を2つの方法で教える実験を行いました。
一方のグループは講義形式、もう一方のグループは学生自身が問題を解くアクティブラーニング形式です。
この2つのグループのうちテストの結果がよかったのは、アクティブラーニングで学んだグループでした。
ところが、「どちらが学べたと感じたか」を聞くと、評価が高いのは講義形式だったのです。
つまり「満足度の高い勉強は成果が低くて、満足度の低い勉強は成果が高い」というパラドックスが起こっているのです。
この厄介なパラドックスを「学習の錯覚(illusion of learning)」と言いますが、日本の至るところで起こっています。
満足度の高さは錯覚を引き起こすのです。
「わかったつもり」からの卒業
現代には、質の高いわかりやすい解説動画が多くあり、とても恵まれています。
しかし、わかりやすい動画学習の最大の問題は、満足するだけで終わりやすいことです。
その結果「わかった気分」だけになる可能性が高いのです。
では、なぜ私たちは、動画を見るだけの学習をしてしまうのでしょうか?
その原因のひとつにスマホがあります。
スマホの動画学習は手軽にできる分、きちんと準備して学んでいる人は少ないのではないでしょうか。
例えば、スマホで動画を見ながらノートを取る人は少ないと思います。
その結果、自然と「見ているだけ」になってしまうのです。
だから、スマホで動画を見るのではなくて、筆記用具を準備して、テレビやPCの画面で授業動画を見るのも錯覚を防ぐ対策のひとつです。
ゴンドラ猫のような学習を避けるためには、動画で見た内容を説明しながらノートに書く、動画を止めて考える、復唱するなど、ゴンドラを動かす行為が必要です。
もし皆さんが、「授業はちゃんとわかるのに、テストになるとどうも結果が出ない」といった状況が続くなら、それはゴンドラに乗っている証拠です。
今すぐゴンドラを降りて、本書で述べるゴンドラを動かす学習に切り替えましょう。
博士(教育学)。元防衛省海上自衛隊数学教官、元代々木ゼミナール数学科講師。
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