10代のうちに知っておきたい心の守り方!「きょうだいと比べないで」
この本は、スクールカウンセラーとして 中高生の悩みと向き合ってきた著者が、 「あなたの心を守るための具体的な方法」をまとめた一冊です。 「友だちが急に冷たくなった」 「勉強のやる気が起きない」 「きょうだいと比べられる」… なぜそんなことが起きてしまうのか? どうしたら解決できるのか? 10代のときに抱えやすい 心のモヤモヤの正体を 一つひとつ紐解いていきます。 著者が実際に聞いてきた、 10代の世界がよくわかる 23人のショートストーリーも掲載。 ぜひ、保護者の方も一緒に読んでみてください。
学校
思春期を迎えた子どもの心のサインにどう寄り添うべきか。多感な時期特有の葛藤やプレッシャーを紐解き、家庭や学校でできるサポートの視点を提示。親子で一緒に読みたい心の処方箋です。
栗本 顕著書『10代のうちに知っておきたい心の守り方』から一部転載・編集してお届けいたします。
Episode
教室で名前を呼ばれたとき、先生が一瞬笑ったような気がした。
「カオリさんには専属の家庭教師がいるから、春休みの間も安心だな」
通知表を手渡しながら、含みのある言い方をされる。
またか……。
入学してまだ間もないころから、私は先生たちの間で有名人だった。
なぜかというと――、私が「あの成績優秀なユカリさん」の妹だから。
私のことを知るより先に、“お姉ちゃんの妹”として勝手に期待された結果はひどいものだった。
「(お姉さんは優秀だったのに)意外と運動が苦手なのね」
「(お姉さんはいつも一番だったのに)テストの点はまあまあだね」
言葉にしなくても、先生たちが言いたいことは伝わってくる。
家に帰ると、通知表を覗きこんだ母が言う。
「お姉ちゃんのときは『2』なんてみたことなかったのにね――」
「もっとお姉ちゃんを見習いなさい」
同じフレーズを聞きすぎて、なんだか心を閉ざすのもうまくなってきた気がする。
たまたま同じ家に生まれただけなのに、勝手に期待して、勝手に比べて失望するのはやめてほしい。
そう思って反発したこともあった。
でも正直な話、自分でもお姉ちゃんにはかなわないと思っている。
2つ上の姉は優しい。たまに勉強も教えてくれるし、自分の成績を自慢するようなこともしない。大人が言う「よくできた子」って、お姉ちゃんのような人のことを言うんだろうな。
私もお姉ちゃんが大好きだ。
……「絶対にかなわない存在」というところ以外は。
同じものを食べて、同じものを見て育ったはずなのに、なんでこんなに出来がちがうんだろう。
だれかに比べられるたび、自分で比べてしまうたび、毎回同じことを思ってしまう。
あーあ。
私はずっと、「成績優秀なユカリの妹」として生きていくしかないんだろうか。
なぜ|身近だからこそ比べやすい
どちらが優れていて、どちらが劣っているかを確認する作業は、他人同士でもしんどいことです。
それなのに、生活をともにするきょうだいが相手ならなおさらしんどい。
同じ環境で育ってきたからこそ、理不尽な気持ちにもなります。
「○○もがんばっているんだから、あなたもがんばって」
「○○だってやってこれたんだから、あなただってできるわよ」
あまりにもよく聞くフレーズですが、言われた側にかかる呪いはかなり強力で、気づけば自分でもきょうだいと比べるようになってしまいます。
人は、身近にいる人を基準にしやすいという特徴があります。
とくにきょうだいは、同じ家で育ち、同じ学校に通うことも多く、どうしても比べやすい存在になります。
親や先生が何も言わなくても、自分の中で「姉はこうなのに、自分は……」と比べてしまうのは、もはや脳のクセみたいなものです。
自分を知ろうとするとき、人は“ちがい”を手がかりにします。
きょうだいにできて自分にはできないことは、“ちがい”です。比べる呪いがかかっていると、それを自分のウィークポイントだと考えてしまうのは、自然ななりゆきなのです。
尊敬していたり、憧れていたりする対象ほど「あの人みたいになれない自分はダメだ」と思いやすくなります。
意味、きょうだいと比べてしまうのは、あなたがきょうだいのことを尊重し、大切に思っているからこそ生まれる感情なのです。
どうする|結局、ストレートが一番効く
親からきょうだいと比べられる場合に、効果的な言葉があります。
それは、「比べるのではなく応援してほしい」と伝えること。
なぜなら、親は子どもの気持ちを“わかっているつもり”になっていることが多いからです。
自分の言動がどれほど子どもを傷つけているか、そもそも気づいていないこともよくあります。
ほかにも、こんな伝え方があります。
〈例〉
「比べられると、自分がニセモノみたいで悲しい」
「私の味方をしてほしい」
「比べられるたびに、やる気がどんどん逃げていくんだ」
「私と○○は別の人間だよ」
「そんなことで?」と思うかもしれませんが、実はこれは、私のカウンセリングの現場でも非常に“あるある”なケースです。
素真な気持ちを伝えて、親がはじめて子どもの気持ちを知るパターンはよくあります。
それは、結局、ストレートな言葉が一番なのです。
どうする|“比べる呪い”をはねのける考え方
自分できょうだいと比べてしまうときは、考え方にちょっと工夫が必要です。
こんな方法はどうでしょうか。
☑ きょうだいを“別ジャンルの人”として扱う
たとえば、お姉ちゃんがクラスの人気者で、自分は引っこみ思案なタイプの場合、
・姉は“コミュニケーションゲーム”のプレイヤー
・自分は“集中力ゲーム”のプレイヤー
と考えてみるのはどうでしょうか。
運動神経や学力ではかなわないな……と思うなら、「姉は学校生活を極めるゲーム」「私はイラスト(趣味)を極めるゲーム」と、フィールドを変えてみるのもアリです。
バスケの選手と野球選手を、同じ土俵で比べる人はいません。それと同じです。
ジャンルがちがえば、点数もルールもちがいます。同じ土俵にはいないと思えると、比べる必要そのものが消えていきます。
☑ 自分の“いいところリスト”を作る
きょうだいの長所ばかり見えてしまうときは、反対に自分の良さが見えなくなっている状態です。
自分の強みだけを集めた「いいところリスト」を作るという方法もあります。
「いいところなんてないよ」と思うでしょうか?よーく思い返してみてください。
・脱いだ靴をそろえられる
・毎日同じ時間に起きられる
・相手のちょっとした変化に気づける
・「ありがとう」を言い忘れない
・動物や小さい子から好かれる
どんなことでもいいです。こんなふうに、思いつくものを書き出してみましょう。
10個、20個と集めていくと「自分には自分の武器がある」という感覚を持てるようになります。
☑ きょうだいのすごさを分析してみる
きょうだいのことを「すごいな」と思うのはなぜでしょうか?
あなたがすごいと思う理由を、もう少し詳しく分析してみましょう。
・英語ができる→毎朝単語帳で勉強している
・友だちが多い→自分からいろいろな人に話しかけていた
・忘れものやミスをしない→重要なことやものをリスト化していた
・食べものの好き嫌いがない→小さいときはあったが、努力して克服していた
こんなふうに分析していくと、「お姉ちゃんがすごいのは、超人だからでも生まれつきの差でもないんだ」と冷静に受け止められるようになります。
どうする|きょうだいを味方につける
そもそも、きょうだいと敵対関係である必要はありません。
能力の高い人に対して、「あの人を敵にしたら怖い」と言う表現がありますが、それはつまり「味方にしたら心強い」という意味ですよね。
同じ発想で、きょうだいをライバルではなく、自分のチームメイト(味方)として考えてみるとどうでしょうか?
・姉の明るさ→自分が困ったときに相談できる
・姉の行動力→自分が苦手な場面で助けてもらえる
このときのポイントは、自分にとって都合よく解釈してしまうこと。
きょうだいの本心がわからなくても、
「お兄ちゃんはあんなに無愛想だけど、たぶん心の中では私のこと応援してるはず」などと勝手に決めつけてしまいましょう。
最後に、大事なことをもう一つ。
まわりがあれこれ言ってきても、結局は本人たちがよければいい。
たとえ親や先生が「○○はすごいのに、あなたは……」と比べてきたとしても、本人が「そんなの関係ないよ」と言ってくれていれば、外の言葉はただの「雑音」になります。
もし可能なら、きょうだいでネタにしてしまいましょう。
「また大人が勝手なこと言ってるね」と、笑い飛ばせたら最高です。
そんなふうに自信が持てるようになると、だんだんまわりの言葉が気にならなくなっていきます。
私も、きょうだいと比べられる経験をしています。
成績の良い兄と比べられて、定期テストの結果が出るたびに同級生から「兄貴は優秀なのんで?」と言われていました。兄が中学受験をしたので、私も当然受験するものだと思われていました。
当時は苦い思いをしたものですが、今では打ち解けて、お互いの家族とも交流する関係になっています。
今の関係がすべてではありません。私のように大人になって変わることもあります。
まわりの声に惑わされずに、あなたときょうだいの関係をぜひ素敵なものにしてください。
公認心理師、いじめ撲滅委員会代表。いじめ不登校自殺防止コンサルタント会代表。メンタルヘルス総合サポート株式会社代表取締役。
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